2009年8月15日土曜日

ブランドマネジメント

ブランドとは何か?

ブランドとは、製品サービスを特徴づけるために付与される名前やマークの総称である。そして、価値プレミアム効果やロイヤルティー効果といったブランドの効果は、ブランドそのものに内在しているわけではない。ブランドそのものは、単なる名前やマークでしかないが、重要なのは、マーケティング活動の中にブランドを組み込むことで、人々の認識や経験との間に新たな関係を作り出すことである。ブランドの価値の源泉は、この間接的な効果にある。

ブランドがもたらす効果

優れたブランドは、事業の収益性や成長性を高める効果がある。その効果はマーケティングのいくつかの局面で起こる。ブランドの中心的役割は、製品サービスと顧客との絆を強めることにあり、選択代案が存在するなかで、買い手が自社製品を選択する理由を構成することである。これは、価格プレミアム効果とロイヤルティ効果となって表れる。

①価格プレミアム効果
他社の製品サービスよりも高価格で自社の製品サービスを販売できるという効果である。
②ロイヤルティ効果
顧客が自社製品サービスを繰り返し購買するようになるという効果である。

加えて、優れたブランドは企業に事業拡張の機会をもたらす。ブランド拡張やライセンス供与が可能となるのである。

③ブランド拡張
新たな製品サービスを開発したり販売したりする際に、自社の既存の製品サービスに用いてきたブランドを使用することである。
④ライセンス供与
自社のブランドの使用を他社に許可し、その対価としてブランド使用料を得ることである。
上記をまとめると、次のようになる。

優れたブランドの構築→①②③④→収益性や成長性の拡大となる。


信頼と識別の印

ブランドのマネジメントは、ブランドの効果や、その資産としての価値を認識することから始まるがそれだけでは、不十分である。ブランドの効果が生じるメカニズム、すなわち、ブランドの機能を明確にしておくことが欠かせない。ブランドの機能は以下の2つである。

①視覚上の手がかりをマーケティングに組み込むことで生まれる機能
②人々の記憶をつなぎとめておく手がかりをマーケティングに組み込むことで生まれる機能

◎保証機能
ブランドには、保証機能がある。製品サービスに付けられたブランドには、単なるマークと済ますわけにはいかない重みがあることがある。企業がブランドを付与することは、自らの製品サービスの品質や性能に対する自身と責任を表明することなのである。

◎識別機能
識別機能とは、ブランドの付与がその対象となる製品サービス群を1つのものとして特定化する役割を果たしているのである。このように、ブランドは、製品サービスを識別するための印となる。企業にとって、自社の製品サービスを他社のものと差別化する必要に迫られた時、識別機能が必要になる。

このように、マーケティングにおけるブランドの価値は、名前やマークとしてのブランドそれ自体の内在しているわけではない。上述した保証と識別の2つの機能は、マーケティング活動とそれに対する買い手の認識とをブランドが縫合することによって生まれる。

◎想起機能
ブランドの想起機能とは、ブランドが買い手に対して、ある種の知識や感情、あるいは、イメージなどを想起させる機能をいう。想起機能は、ブランドの育成を長期的なマーケティングの課題とする。

①ブランド認知
ブランドの想起機能は、マーケティングコミュニケーションを補完する。人々は、製品サービスを購買する際に、過去の経験に基づく記憶を意思決定のための情報として活用する。ブランド認知には、再認と呼ばれる局面がある。例えば、ナイキのスウィッシュを見て、このマークを知っていることである。さらに、ブランド認知には、ブランド再生という局面がある。商品カテゴリーの提示と連動して特定のブランドが想起されることをブランド再生という。例えば、アイスクリーム→ハーゲンダッツである。

②ブランド連想
また、ブランド再生とは逆の方向で、ブランドの提示と連動して、知識や感情、イメージが想起されることをブランド連想という。例えば、SONY→ウォークマンといった連想である。

これらのブランド連想が、マーケティングマネジメントのプログラムと連動した時、どのような効果が生じるのか?ブランド連想が顧客の高いロイヤルティー効果や価格プレミアムを形成するメカニズムは以下の3つである。

(A)情報処理負荷の削減

ブランドには、買い手が購買時に行う情報処理活動を簡便化するという働きがある。
(B)自己表現の媒体化
自己表現は自らを満足させる行為であると同時に、他者に対するコミュニケーションでもある。すなわち、最先端をいく生活者であろうとする時には、自分自身だけでなく、社会全体もしくは帰属する集団の構成員に対しても最先端に見えなければならない。
(C)有用性の構成
ブランド連想によって、製品サービスの有用性が高まる。ブランドを付加することで、製品に備わっていた有用性がクローズアップされ、より評価される。

まとめ

ブランドの機能と効果
①保証
製品サービスの品質と性能に対する自信と責任の表明
②識別
競合する製品サービスの異質性の強調
③想起
→(ブランド再生)
・想起集合への参入
→(ブランド連想)
・情報処理負荷の削減
・自己実現の媒体化
・有用性の構成

①②③→価格プレミアム効果、ロイヤルティー効果をもたらす。


ブランドの活用と育成

ブランドの活用と育成には、次のようなマネジメントが欠かせない。
①様々な機能のどれをどのタイミングで求めるか
②名前やマークを付与するだけでは限定的な効果しか生まれない。
③ブランドは一朝一夕には出来上がらない。
④ブランドとマーケティングは補完的な関係にある。


プロダクトか?ブランドか?

ブランドのマネジメントにあたっては、マーケティングの基軸を、①製品サービスにおくのか、②ブランドにおくのかを選択しなければならない。

②のブランドを基軸とし、中長期的にブランドの価値を高めていくことが目標となる。それを推進しようとするのが、ブランド価値経営である。それは、ブランドを育てることを企業経営の最重要課題とする。

2009年8月14日金曜日

関係性マーケティング

関係性パラダイム(マーケティング)とは?

企業と外部との関係性に注目しており、その基本枠組みとして関係性の結合対象と、②関係性そのものの内容とを規定するところから始まる。したがって、関係性マーケティングは、まず、企業と顧客との関係性、取引先との関係性、資本家、投資家との関係性、社会、大衆との関係性といった様々な次元から論じることができる。これらの結合対象は、ステークホルダーと言われているものである。しかし、関係性マーケティングを特徴づけているのは、関係性の内容であり、その中心概念は、インタラクションである。

交換パラダイムから関係性パラダイムへのシフト

交換パラダイムとは、売り手と買い手の双方にとって価値のある交換を実現することがマーケティングの中心的な課題である。つまり、相手のメリットになる提案を行いながら、自社の立場を強めていく道を探った方が、はるかに大きな果実が手に入る。事業を成長させるためには、売り手と買い手のWIN-WIN関係を確立しなければならない。そして、近年、交換パラダイムに対して、新たに注目され始めているのが、関係性パラダイムである。交換パラダイムによって一度関係が出来上がると、交換パラダイムとは違った取引の世界が出現する。関係性を重視するこのマーケティングパラダイムは、リレーションシップマーケティングと呼ばれることもある。このパラダイムシフトが起こった背景として、

①市場の成熟化

需要が大きく伸びている間では、新規顧客を獲得することも難しくないが、産業が成熟期に入ると状況が変わる。市場が成熟化すると、さらに成長するために、競合他社とのパイの奪い合いになり、マーケティングコストが上昇する。そして、買い替え需要が中心になるなど、需要の中身が変化する。このように、成熟期に入ると、新規顧客を獲得するハードルが高くなり、市場シェアの高い企業にとっては、既存顧客のボリュームの方が大きくなるため、既存顧客との関係性を重視した方が賢明である。

②アフターマーケットの拡大

アフターマーケットとは、製品サービスの販売後、それに付随して生じる修理や部品交換などの需要を対象として形成される市場のことである。アフターマーケットは、製品が高度化、複雑化するとともに拡大する傾向がある。そして、企業がアフターマーケットにアプローチする際にも、顧客との関係を継続させることが重要な課題となる。

③情報技術の発展
近年関係性パラダイムが注目されるようになったのは、顧客データベースを構築し、その分析を通じて顧客関係のマネジメントを高度化していこうというアイディアが現実味を帯びてきたからである。情報技術を顧客関係のマネジメントに活用しようとするアイディアをCRMと呼んでいる。このように、情報技術の発展によって現実的な手法の可能性が広がったことも、顧客との関係のマネジメントに対する関心を高める要因となっている。

顧客との長期的な関係を形成することのメリット

関係性パラダイムは、顧客との関係を創造し維持することをマーケティングの中心課題として位置づける。そのメリットは以下の通りである。
①取引コストやリスクの低下

企業が顧客と長期的な関係を築くことができれば、長期的な信頼関係をもとに、新製品開発や合理化のために思い切った投資ができるようになる。

②販売機会の拡大
顧客のニーズやその変化を長期的にとらえていくことで、クロスセリングやアップセリングを行うことが可能となる。クロスセリングとは、自社製品の顧客に対して、さらに関連する他の製品サービスを販売していくことであり、アップセリングとは、再購買時に、よりグレードの高い製品サービスへアップグレードすることである。

③顧客獲得コストの低減
新顧客獲得には、既存顧客を維持するのに必要なコストの数倍になると言われている。


顧客関係の識別と選択

顧客関係は、新規顧客に比べコストを抑えることができるため、企業にとっては、資産とみなすことができる。では、こうした自社の資産として育成しようとする時、どのようなマネジメントを行うべきだろうか?
①顧客関係の識別と選択
顧客関係のマネジメントに関しては、まず、顧客関係の識別と選択を行わなければならない。企業としてどの顧客との関係に投資し、育成していくのかを見極めるのである。自社の顧客の中から特に重要な優良顧客を識別し、選択的な対応を行っていくことになる。その前提となる枠組みは、市場細分化によって与えられる。細分化によって、企業は、潜在的な顧客の中から顕在化させるべき顧客グループを識別することができる。また、顧客関係の識別と選択においては、顧客生涯価値も識別しなければならない。

②顧客関係の維持と修復
顧客関係を維持するためには、以下の3つの課題に取り組まなければならない。

(A)スイッチング障壁の形成
スイッチングコストを高めることによって顧客の離脱を防ぐというものである。一方、顧客満足の実現とは、自社の製品サービスに対する顧客の満足度を高め、その購買を継続することである。
スイッチング障壁は例えば、①会員制②長期間割引③ポイントプログラム④移動コスト⑤経験⑥信頼関係などがある。そして、スイッチング障壁を活用するためには、次のことを考慮しなければならない。①他社に先行する。②新規顧客獲得に及ぼす負の影響を見逃さない。

(B)顧客満足

顧客満足は、事前の期待と実際に体験したサービスへの評価の差によって規定される。事前の期待を大きく上回る体験をすれば、とても満足するが、期待以下なら不満を覚えるだろう。また、顧客満足度調査は、自社の製品サービスに対する顧客満足度の実態を把握し、顧客からどの程度支持を得ているかを診断する調査である。満足度調査を読み解くには、不満より満足の方にバイアスがかかるため、相対評価をもとにした分析が望ましい。

◎満足度-インパクト分析
製品サービスごとに、満足度(パフォーマンス)と重要度(インパクト)という2つの観点から質問を行い、マトリックスで、次のように集計される。
①重要度も高く、満足度も高い場合→→→企業にとっては望ましい成果が出ている。
②重要度は低いが満足度は高い場合→→改善すべきだが他の需要な属性が犠牲になれば問題。
③重要度も低く、満足度も低い場合→→→満足度の低さは問題だが、顧客は重視していない。
④重要度は高いが満足度が低い場合。→→早急に改善すべき属性。

◎顧客関係の修復
良好な関係を築いても、なんらかの不具合や不手際で顧客が不満を抱くことは避けられない。その場合は、迅速に対応すべきである。顧客も、不満が解消されるならスイッチング障壁をわざわざ乗り越えて他社製品に乗り換えるメリットは少ないからである。したがって、顧客の苦情は前向きに捉え、顧客からの贈り物であるとみなすべきである。ただし、ほとんどの顧客は、不満を抱いても苦情を言わずに乗り換えるため、顧客に苦情を言わせる工夫が必要である。具体的には、①迅速な対応で問題の原因について説明する。②権限を従業員に委任する。③従業員に顧客満足の価値を得心してもらう。などである。

③顧客関係を高める組織
顧客との関係の識別や選択、あるいは、その維持や修復のための取り組みを継続していく必要がある。こうした一連の取り組みを実践していくには逆ピラミッド型組織が適していると言われる。一般的な企業の階層的な組織構造は頂点としたピラミッド型組織であるが、逆ピラミッドは、最上位に顧客が位置し、その下に顧客と直接接する現場の従業員が位置するという形の図式で階層的な組織構造を描いたものである。

2009年8月12日水曜日

産業(製品)のライフサイクル

製品ライフサイクル

①生成期(導入期)・・・・市場に導入された新製品サービスが、小さな需要しか獲得できない時期。
売上は、小規模で、資金の流出が多く利益はマイナス、顧客は、革新的採用者(イノベータ―)、競合他社はほぼ無し。目標は、技術と便宜の新結合。

②成長期・・・・需要が急速に拡大する時期。
売上は、拡大し、利益は増大するが、資金の流出も多い。顧客は、初期採用者(アーリーアダプター)、競合他社は増加し、目標は、売上の拡大/市場シェアの拡大

③成熟期・・・・成長が鈍化し、需要がピークに達する時期。
売上はピークに達する。資金の流入が多く、流出が少ないため、高利益となる。顧客は、追随型採用者(フォロワー)/買い替え需要であり、競合他社が減少し比較的安定する。目標は利益の確保/市場シェアの維持である。

④衰退期・・・・需要が減少する時期。
売上は減少し、利益は低下し、顧客も減少する。競合他社も減少し、目標は、事業の再定義を行い延命することで利益を得るか、事業の縮小、撤退である。

こうした産業の推移は、「製品ライフサイクル」と呼ばれる。横軸に時間、縦軸に製品サービスの売上額を取ると、製品ライフサイクルはS字曲線で表すことができる。

①~②生成期から成長期へ

技術と用途が結びつくことで、新しい製品サービスが誕生する。産業が生成してから、成長期へと飛躍していくためには、以下の要件が必要である。

①競争者間で共通する製品技術企画(デファクトスタンダード)が確立する。
デファクトスタンダードが確立すれば、関連産業が、(A)安心して投資できるようになる。(B)多様なニーズに応えられる製品群が揃い、(C)需要側(リスク)のリスクが低減する。(D)補完産業の整備が進む。(E)互いに不安を打ち消し合う好循環が生まれる。

②生活シーンに定着した安定した需要が確保される。

顧客のタイプ分類

①革新的採用者(自らが抱えた問題が解決されることを最優先する)(生成期)
革新的採用者の多くは、解決しなければならない問題を処理するために、まだ誰も購入したことのない製品サービスを自らの判断で探索、評価し、採用する人々である。

②初期採用者(問題解決と使い勝手の良さを考慮する)(成長期)
革新的採用者に続いて、比較的早い時期に新しい製品サービスを採用する人々である。初期採用者は、単に問題が解決されるかどうかではなく、問題がどのように解決されるか、すなわち、その使い勝手の良さという要素を評価して製品サービスを選択する。したがって、彼らに訴求するためには、タンに基本性能を高めるだけでは不十分で、使い勝手も含めたより広い視野から製品サービスを検討し直していくことが欠かせない。

③追随型採用者(手段と目的を一体のものとして受け入れる)(成熟期)
さらに、初期採用者に遅れて、製品サービスを購入する人々である。他者が使用しているのを見て購入するため、問題解決に対する切実さは少ない。要するに、これらの人々は、手段が与えられて、初めて、解決すべき問題を発見するのである。しかし、顧客としてのボリューム層が一番大きい。

ライフサイクル別マーケティング戦略

①生成期における革新的採用者に対するマーケティング

コミュニケーションの時間を十分に取ると同時に、様々な疑問や要求に応える必要がある。そのためには、製品サービスの特徴や使い方を熟知し、経験を積んだ自社の販売員やサービス担当者を使って人的なコミュニケーションを取るのが一般的な方法である。

②成長期への移行における初期採用者に対するマーケティング

産業として大きく成長していくには、さらに顧客層を拡大していくことが欠かせない。その対象は、初期採用者である。前述のように初期採用者は、製品の使いやすさも十四するため、基本的性能を超えた拡張的な便宜を備えた製品サービスを「拡張製品」と呼ぶ。拡張製品とは、初期採用者の期待に応えるための製品サービスのセットであり、コアとなる製品サービス+その使用や購買を容易にする様々な付加価値やサービスによって構成される。


③成長期のマーケティング

業界標準が成立し、拡張製品が登場すると、成長期に向けた製品の離陸が始まる。同時に、産業の枠組みに関する暗黙の合意が、競争関係、取引関係、消費者の間でできあがる。
生成期には、プッシュ戦略を採用されるが、成長期には、プル戦略が有効になる。それは、①製品の性能が明確になると値ごろ感がつかみやすくなり、価格の重要性が増す。②不特定多数の買い手に向けた販売が必要になるため、流通チャネルが広がる。③伝えられるべき情報が絞られていれば、マス広告が効果的であり、マス広告が採用される。④チャネルの拡大と単純化されたプロモーションがされるようになると、それと連動して、店頭ですぐにその違いが分かる製品の差別化の重要性が増す。

④成熟期のマーケティング

成熟期には、需要の伸びが鈍化するとともに購買行動のルーティン化が進み、売上を大きく伸ばすことはできないが、生成期から成長期に行った多額の投資を回収する時期であり、マーケティング目標を売上から利益へと転換する。具体的には、①市場細分化の重要性増大②競争地位別のマーケティング③メーカーから流通へのパワーシフトといった変化に直面する

⑤衰退期のマーケティング

成長期が続く産業もあるが、やがて多くの産業が衰退期を迎えることになる。そして、規模を縮小するか、撤退するかを選択することになる。だが、衰退期の産業でも、事業の定義を変えることで、成長する可能性がある。①顧客を変える。②機能を変える。③技術を変える。この3つを見直すことが必要である。

2009年8月11日火曜日

取引関係

取引とは何か?

企業が活動を行う際には、他の組織との取引が必要となる。ここでいう取引とは、経済活動を営む独立した主体間の境界を越えた財の移転や、事業活動の相互調整のために行われる探索や調整、検証のための活動を言う。

自社でまかなうか、他社に委ねるか?

企業は、マーケティングとかかわる様々な業務について、自社内あるいは、自社グループ内でまかなうのか、それとも他社に委ねるのかを選択することができる。
前者を自社内への統合、後者を市場での取引と呼ぶことにする。

取引関係の広がり(垂直統合と水平的連鎖構造)

統合と取引という2つの方法の選択が何をよりどころとして行われるのかという問題についての検討を進めていく。以下では、マーケティングにおける選択問題の対象領域の広がりを2つに分けて確認する。

①垂直的連鎖構造(調達→組み立て→物流→販売→代金回収)

企業は、必要な人材、資源をインプットし、その結果産出された物財、サービスを産業の次に引き継いでいかなければならない。この局面がアウトプットである。このインプットとアウトプットは、最終的な消費者に到着するまで何度も繰り返される。この連鎖の広がりを垂直的連鎖構造と呼ぶ。なお、この垂直的な統合、取引の連鎖構造は、バリューチェーンあるいは、サプライチェーンと呼ぶ。それは、物財やサービスに付加価値を付け加え、その有用性を高めていくプロセスだと考えることができる。

②水平的連鎖構造(例えば、自動車⇔ガソリン⇔修理工場)

製品サービスの有用性を作り出すことに貢献しているのは、垂直的連鎖構造だけではない。買い手にとっての製品サービスの有用性は、製品サービスがどのような水平的連鎖構造の中に置かれているのかによっても異なってくる。製品サービスの有用性あるいは性能は、組み合わせ可能な製品サービスとの関係の中で決まってくる。こうした製品サービスの有用性を規定する水平的な製品サービスの連鎖は、バリューネットワークと呼ばれることがある。企業は、補完的な関係にある製品サービスの供給を自社でまかなう場合もあれば(統合)、他社に委ねる場合もある。


では、どのような要因が、統合か取引かの選択を規定しているのだろうか?

垂直あるいは、水平方向に統合を進めるには、様々なトレードオフがある。

①生産コストの条件
社外から調達した方が割安なのか、自社で生産した方が割安なのかという問題がある。統合するための財務力があろうとも、より低いコストで調達できるなら、調達した方が良さそうである。

②取引コストの条件
必要なサービスを社外から調達しようとすると、生産コスト以外にも、取引相手の探索や条件の交渉、監視に関わるコストの問題が発生する。また、取引には、機会があれば相手を出し抜いてでも利益を得ようする行動(機会主義的な行動)を考慮に入れなければならない。

③資源蓄積の問題
統合を進めることで、部品や原材料を内製化することで、自社製品の設計、生産に関わる重要な技術やノウハウを獲得できる場合がある。垂直的連鎖の沿った統合を行うことで、川上あるいは、川下の技術ノウハウを取得することができる。

だが、その一方で、経営資源の蓄積は、事業リスクの増大と背中合わせであることを見落としてはいけない。 ①莫大な資金が必要であること。②時間がかかる。③操業度が低下した際にリスクが高くなる。


上記をまとめると取引と統合のトレードオフ関係は以下の通り。

取引⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔統合

有利   ①資源取得の機動性     不利
有利   ②資源稼動の柔軟性     不利
不利   ③取引コスト          有利
不利   ④資源蓄積の水準      有利
有利   ⑤事業展開のスピード     不利

2つの原理のハイブリッド

現実に、調達や販売を行う際には、組織への統合と、この市場取引との中間に位置する第3の方法がある。この擬似組織的な取引の方法は、組織への統合と取引との中間的な性格を持つことから、中間組織と呼ばれる。


中間組織を活用する

中間組織は、組織への統合と市場での取引のの両者のメリットを併せ持ったものとなる。中間組織では、特定の取引相手との長期的な関係を前提としているため、信頼関係を形成しやすく、機会主義的な行動が発生しにくい。したがって、純粋な市場取引を行う場合より、取引コストは小さく、経営資源の囲い込みをはかることにもつながりやすい。一方で、中間組織は制度的には独立した企業間での取引であるため、完全に組織内で統合してしまう場合と比べるとはるかに柔軟性があり、リスクも低くなる。このように、中間組織では、取引関係は安定したものとなるが、競争の圧力も持続しており、取引を他社に奪われる可能性が残っていることから、イノベーションに対するインセンティブとなっている。

競争戦略

競争対応の枠組み

製品ポートフォリオ管理によって各事業部への基本的投資行動が決定されたのを受け、各SBU(戦略的事業単位)ごとに事業戦略が策定されるが、この事業別の競争対応の戦略が、4Pを中核とする各機能戦略を方向づけるのである。

マイケルポーターの3つの基本戦略

ポーターによると企業の競争戦略は、他者に対する競争優位のタイプ(コスト優位か差別化か)と戦略ターゲットの幅(広いか狭いか)に基づき以下の3つ(4つ)に分類される。そして、それは、競争優位をいかに確立するかという企業の根本的な競争対応を規定するものである。

①コストリーダーシップ戦略
コストという判断基準が明確であり、低コストが目的となる。コスト削減の対象となるのは、生産、調達、流通、開発、情報コストなどである。そのための戦略変数は、規模の経済性、操業度、チャネルの共同行動、垂直統合、参入時期、技術投資など全ての企業活動が考えられる。例えば、OEM、PBが多く見られるのは、操業度の向上による生産コストの優位の獲得を目的とした戦略展開である。

②差別化戦略
消費者が欲する何らかの次元において、自社を他社から差別化する戦略である。差別化の対象としては、製品、販売チャネル、広告販促、アフターサービス体制などその他多くの企業活動がある。消費者が、差別化されていると感じるのは、他社製品に比べ、消費者が支払うコストが低いか、消費者が得るパフォーマンスが高い時である。コストは価格が安いだけでなく、維持、取り換え、時間などの消費者コストも含む。また、パフォーマンスを上げるためには、客観的に優劣を判断できる思考型属性と、主観的な判断に伴う、感情型属性を考慮することが重要である。

③集中戦略(コスト集中、差別化集中)
集中戦略は、ターゲットを業界平均より狭く限定し、そこに集中する戦略であり。競争優位のタイプによってコスト集中と差別化集中に分けられる。どちらにせよ、狭いターゲットに集中することで、そのターゲットに最適な戦略を展開することが可能になる。ターゲットを広く取る競合は、集中戦略を取る特定ターゲットに最適な手はなかなか打てない。つまり、広ターゲット企業は、特定ターゲットに対して最適な戦略を打ちづらいのである。例えば、トヨタは、フルライン戦略を展開しているため、高級スポーツカー市場では、集中しているポルシェに勝てない。ターゲットの限定の仕方は、買い手と製品という2つの方向が考えられる。

製品ライフサイクル(PLC)別戦略

PLCは、製品のライフサイクルの展開に伴うマーケティングミックス構築の動態的な方向づけを行うものである。

①導入期
新製品の知名と、トライアルが最大目的となるので、広告販促に力を置きつつ、ベーシックな製品で入り込めるチャネルから徐々に展開していく。

②成長期
競争が激しく、シェアの最大化が目的となるため、価格を下げ、チャネルを広げていくことが中心となる。

③成熟期
成長率が鈍化し、売上拡大が難しくなり、利益最大化が目的となるため、多様なブランドモデルの展開を中心に広告を増やして、ブランドロイヤルティを高めていく。

④衰退期
支出削減とブランド収穫が目的なので、コスト削減に向けてのあらゆる戦略を4P全般にわたって行う。

具体的には http://maki-jun77.blogspot.com/2009/08/2.htmlに投稿済み。


競争地位別戦略

競争地位別戦略は、市場シェア順位という競争地位別の4P戦略を方向づけるものである。ある程度、競争者が安定している必要があるため、競争地位別戦略は、特に、PLCにおける成熟期に妥当な戦略である。

①リーダー(最大シェア、利潤、名声、イメージ/全方位/フルカバレージ)
市場トップ企業のリーダーは、現在の最大シェア、最大利潤、名声を維持することが目標となるため、基本方針は、市場内のすべてに対応する全方位型となり、ターゲットも全ての顧客を対象とするフルカバレッジとなる。この方針は、4P戦略を方向づける。製品は、フルライン、チャネルは開放型、プロモーションも高水準、価格も、名声の維持も考慮して中~高価格に設定される。リーダの戦略の定石には以下のものがある。
(A)周辺需要拡大
業界全体の需要を底上げすることで、新規拡大分がシェアに応じて分配されるため、結果的にリーダーのメリットが一番大きい。
(B)非価格競争
リーダーが特に遵守すべき戦略である。理由は、価格競争は、最大シェアのリーダーに利潤縮小のダメージが一番大きく、確立したブランドエクイティ、イメージの低下をもたらすからである。ただ、価格引き下げに他社が追随してこない場合(コスト競争力で勝てないと判断される)は、リーダーと言えど、価格競争が可能となる。
(C)同質化対応
簡単に言えば、他社製品をイミテーションすることである。リーダー企業は、他社と同じことをしても、販売力、ブランド力、技術生産力の優位性により、下位企業に勝つことができる。

②チャレンジャー(市場シェア/差別化/セミフルカバレージ)
2番手企業のチャレンジャーは、リーダーのシェアに追いつくことが目標となるため、4Pを含め、全てにおいて、リーダーとの差別化によってシェア拡大を計っていくことになる。ただ、経営資源でリーダーに劣るため、セミフルカバレージから始めざるを得ない。チャレンジャーの定石は、徹底した差別化であるが、リーダーが同質化戦略を取ってくるため、同質化できない差別化を目指すことになる。例えば、チャネルを維持する必要のあるNECや松下にとって、デルやソニーの戦略に対してそれとは同質化できない。他には、規格戦略に関しては、技術規格が異なっているため、同質化されにくい。

③フォロワー(生存利潤/模倣/経済性セグメント)
3番手以下の企業はのフォロワーは、トップ企業の座を奪うほどの経営資源は持ち合わせてないため、まずは、着実に利潤をあげていくことが目標となる。そのためには、リーダーが成功した戦略を模倣し、製品開発などのコストを極力抑えることが重要である。ターゲットは中心市場では勝てないため、 中~低価格志向の経済性セグメントを中心に狙い、それに合わせた4Pを展開することになる。
定石は、リーダーはじめ成功企業の模倣を低価格で実現することにある。ただ、圧倒的なコスト競争力のある上位企業に対して低価格で挑むことは難しく、上位企業が力を入れていないセグメントに追い込まれることになる。

④ニッチャー(利潤、名声、イメージ/集中/特定市場セグメント)
シェアではなく、利潤と名声、イメージを目標として集中戦略をとる。すなわち、ターゲットは特定市場セグメントに限定し、そこに到達するためにチャネル、プロモーションは特殊になる。製品、価格は、高めを狙い、高収益を目指す。定石は、集中による特定市場でのミニリーダ戦略である。消費財では、高級服、高級車、高級オーディオなど、高品質、高価格市場へのニッチャー戦略がよく見られる。例えば、アイスクリームにおけるPBが増えたことで、NBが価格を下げざるを得なかったのに対して、ハーゲンダッツなどのプレミアムアイスクリームにとって、影響は少ない。

以上であるが、PLCなどの通時的な流れのなかで、また、競争地位などの共時的な構造のなかで、いかに競争優位を確立するかというグランドデザインをもてるかどうかにかかっている。

プロセスとしての競争

企業間の競争を分析するには、「プロセスとしての競争」という考え方が必要となる。プロセスとしての競争は、構造としての競争と補完的な関係にある競争の作動である。かつて、オーストリア学派が強調したように、競争には、新たな知識や情報を生み出すという働きがある。プロセスとしての競争は、この知識創造のプロセスとしての競争をとらえたものである。

プロセスとしての競争は、事業の定義を研ぎ澄ますプロセスとなる。企業は、他社との競争を通じて、独自の経営資源や能力を新たに発見していく。そして、この発見を取り込んでいくことで、事業の定義は更に磨きあげられたり、組み替えられたりする。

プロセスとしての競争は、産業の枠組みをダイナミックに組み替えていくプロセスとなる。このとき、企業は、臨機応変なマーケティングマネジメントの切り替えと、マーケティングマネジメントに通じた産業の枠組みの再構築という、2つの次元にまたがる問題に対応していかなければならない。

プロセスとしての競争は、事業の強みと弱みが反転するプロセスとなる。これまで、企業が自社の優位性を確保するために築き上げてきた経営資源が、新しい状況への適応を妨げる要因となってしまうことがある。このような企業の戦略的行動が引き起こすジレンマを「戦略的ジレンマ」と呼ぶ。

(Ex)ビール産業
キリンビールのラガービールが当初60%を超える市場シェアを取っていた。しかし、ラガービールの成功は、キリンの競争優位の源泉であったと同時に、移動障壁の源泉でもあった。2位以下の企業は、ラガー以外の製法で、ジレンマを突こうとした。1980年代の後半に、アサヒスーパードライを発売され、その結果、ラガービールは細分化されたカテゴリーの1つに成り下がり、アサヒがトップになった。10年後には、今度は、アサヒが同様の戦略的ジレンマに陥ることになる。サントリーが開発し、キリンが参入した発泡酒市場がビール市場のシェアを食い始めた。本格的なビールを訴えていたアサヒは参入が遅れた。かつて、キリンが直面したのと同じジレンマにアサヒが直面することになったのである。

2009年8月10日月曜日

競争構造の枠組み

競争の場の枠組み

産業の枠組みは、以下のような複数の視点が重ね合わせることによって与えられる。

①需要の同一性
産業とは、同一の需要をめぐる企業間の競争の場である。もっとも、この需要の交差弾力性の高さに依拠した定義だけでは、産業という場が無限に広がってしまうため、以下の視点を重ね合わせることで少し狭く定義しなければならなくなる。

②技術の共通性 (=産業)
まず考えられるのは、製品サービスを製造したり、運営したりするのに必要な、技術の共通性によって産業を捉えるというアプローチである。

③事業構造の類似性 (=戦略グループ)
企業が誰を直接のライバルと考えるかという問題である。企業が直接のライバルとして認識するのは、同じ産業のなかでも、特によく似たマーケティングの手法や活動を展開している企業だろう。

以上のように、需要の交差弾力性の高さに加えて、技術の共通性、事業構造の類似性に注目することで、企業間の競争の場となる中範囲の領域を切り出すことができる。また、技術の共通性に基づいたユニットを産業、事業構造の類似性に基づいたユニットを戦略グループと呼ぶ。


競争が規定する産業の収益性

マーケティングにかかわる戦略立案を行ううえで、産業という枠組みが重要なのは、産業によって各企業の投資収益率が大きく異なるからである。
事業の収益性は、①自社の属する産業の魅力度、②その産業の中での自社の事業の競争的地位という2つの基本要因によって規定される。

産業という枠組みの中での企業の競争行動は、以下のような3つの基本要因の影響を受ける。

①競争者の数と規模の分布
産業に属している企業の数が少なければ、価格水準をコントロールすることが容易になる。さらに、企業の数だけでなく、産業内で企業の規模がどのように分布しているのかによっても競争状態は異なってくる。企業の数が多くても上位企業にシェアが集中している場合、競争は比較的緩やかなものになる。

②新規参入の容易さ
産業の競争状態は、新規参入が容易であるかどうかによっても異なってくる。参入障壁とは、新たな参入を妨げる要因である。

(A)初期投資の大きさ
規模の経済性は、参入障壁を高める有力な要因である。
(B)特許や独自の技術
(C)流通チャネルの閉鎖性

販売店の系列化により、流通チャネルに対する支配力を高めることは参入障壁になる。
(D)政府の規制

③差別化の程度
産業の競争状態は、産業内で製品サービスが差別化されているか、どうかによって異なってくる。


戦略グループ

産業内の競争ユニット

マーケティング手法や活動の類似性に基づいた企業の分類を行う際には、事業構造に注目することが多い。事業構造が異なると有効なマーケティングのあり方が変わってくるからである。この事業構造の類似性にもとづいた企業グループを戦略グループという。

戦略グループを分析する上で、「垂直統合の程度」「製品ラインの広がり」という2つの軸が重要である。前者は、産業の垂直的な連関の中での事業の範囲を捉えたものである。産業の垂直的な連関の中で、どこまでを企業が自社内に統合化しているかを表す。後者は、企業が取り扱う製品サービスのカテゴリ-の広がりを捉えたものである。

(EX)白物家電の中には様々な種類があるが、家電メーカ-でも、製品カテゴリーの全てにわたって製品を供給している企業もあれば、そうでもない企業もある。

深い垂直統合と広い製品ラインを特徴とするのが、PANASONIC、東芝、日立である。これらのグループのマーケティングの特徴としては、①製品ラインを広くして、他社製品の進入を防ぐこと、②革新的な新製品よりも、2番手追従型の製品を先行企業に遅れず投入することを至上命題とする。③他社を圧倒する広告、プロモーションを投入する。化粧品産業では、資生堂、カネボウ、コーセー、花王などの大手制度品メーカーである。

深い垂直統合と狭い製品ラインを特徴とするのが、ソニー、シャープ、パイオニアなどの専門家電メーカーである。これらは、系列店が無かったため、革新的な新製品の開発やブランドイメージを強みとしてきた。化粧品産業では、百貨店などを中心にクリニークや、LVMHなどがある。

浅い垂直統合と広い製品ラインを特徴とする戦略グループとしては、イオンやダイエー、良品計画などのPBを開発する流通企業である。技術革新の余地が小さくなった冷蔵庫などを対象に、基本性能に絞った製品を企画している。化粧品では、マンダム、ユニリーバである。

浅い垂直統合と狭い製品ラインを特徴としているのは、PBなどを請け負う中国、韓国、新興の国内メーカ-などである。化粧品では、コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどで限定的に販売されているPBブランドメーカーである。

以上のように、戦略グループの識別が重要なのは、同じ産業内でも、グループが異なれば、垂直統合の深さや製品ラインの広がりが異なる為、企業が別の戦略グループへ移動することが困難になる、移動障壁が形成されるからである。


戦略グループの強みと弱み

垂直統合がもたらす強み弱み、製品ライン拡大がもたらす強み弱みは以下の通り。

垂直統合の強み

①様々な活動を同期化することでコストを削減できる。
②取引条件を統制する機会が生まれる。
③川上、川下の技術を習得できる。

弱み

①莫大な資金が必要となる。
②企業活動の弾力性が低下する。
③操業水準が最適生産規模に達しなければコストは削減できない。


製品ライン拡大の強み

①幅広い顧客層への対応が可能になる。
②共通化、一括化による規模の経済性を享受できる。
③流通業者やディーラーとの取引が有利になる。


弱み

①戦力の分散化という弊害に直面する。開発やプロモーションの人材や資本を分散して投入せざるを得ない。

2009年8月8日土曜日

消費者行動理論

消費対応の考え方

①マーケティングコンセプト

マーケティングコンセプトは、企業と消費者の関係を考えたり、分析したりする際の代表的な思考の枠組みである。それは、「消費者を理解し、消費者に喜ばれる製品サービスを作ることを第一とする」という発想を企業経営や事業運営の基本的な指針とするという考えである。つまり、企業や事業のあり方を「企業組織の外から内へ」という目線でとらえようとするものである。

②販売コンセプト

販売コンセプトでは、消費者ではなく、企業の内部活動を発想の起点とする。その典型的な問いは、「企業が作り出した製品サービス、あるいは企業が有している技術や能力をいかに売るか」というものである。つまり、「企業組織の内から外へ」という目線で捉えることができる。


①消費者→→→→→→→→→→→→企業
②消費者←←←←←←←←←←←←企業

重要なのは、マーケティングコンセプトと販売コンセプトの優劣に決着をつけることではなく、両者の間を行き来することである。


インプット-アウトプット分析とメカニズム分析

マーケティング担当者は、「どのような消費者が、何を必要としているのか」「さらに多くの消費者により多くを購買してもらうには、いつ、どこで、何を行えばよいか」

①インプット-アウトプット分析(S-Rモデル)

インプット-アウトプット分析は、「刺激-反応モデル」と呼ばれることもある。それは、「どのように刺激したら(インプット)、どのような購買行動を引き出せるか(アウトプット)」という図式で消費者の購買を理解しようとするものである。

(EX)ある缶コーヒーのブランドの広告料を増やすというインプットに対して、消費者の購買数量というアウトプットがどのよういに変化するのかという分析は、典型的なインプット-アウトプット分析である。

②メカニズム分析(S-O-Rモデル)

インプット-アウトプット分析では、ブラックボックスとなる、消費者の反応を導くプロセスを解明しようとするのがメカニズム分析である。マーケティング活動によって与えられた刺激が消費者の反応を引き起こすには、消費者の認知や意思決定のプロセスを経なければならない。この刺激と反応との間を取り持つプロセスの作動を解明するのがメカニズム分析である。
メカニズム分析は、S-O-Rモデルが代表的である。

S-O-Rモデル研究

Sは刺激(stimulus)、Oは生活体(organizm)、Rは反応(response)を表している。最も代表的な研究であるハワードシェスモデルでは、消費者は、実際の製品(実際的刺激)、広告(象徴的刺激)、口コミ(社会的刺激)、などの刺激を知覚し、時には、自ら進んでこれら刺激を探索(外的探索)しながら、製品に対する態度を形成する。好意的な態度が形成されたなら、それは購入意図をつくり、結果として購買行動を起こすことになる。そして、購買した製品の満足、不満足の結果はフィードバックされ、ブランドに関する知識(ブランド理解)が強化、修正される。このような刺激に対する消費者の反応段階を包括的モデルの中に示したS-O-Rモデル研究は、企業にとっては、自社の製品の浸透度合いを把握することを、また、消費者を購買行動へ向わせるための戦略ポイントを理解することを可能にさせるものであり、今日なお非常に実用的な分析法である。


購買意思決定の分析

購買の意思決定のプロセスは、消費者の心の中では、次の2つの局面の組み合わせとして展開することとなる。

①最適な製品、サービスを知覚し評価する。

プレゼントなどを購買する場合、消費者は、購買可能な製品サービスの中から最良なものを選ぼうとする。購買意思決定とは、様々な選択代案を知覚して、それぞれを評価することである。

②購買の必要や欲求を確立する。

だが、そもそも消費者がプレゼントを手に入れたいと思わなければ知覚や評価は始まらない。購買意思決定は、特定の製品サービスに対する必要や欲求を確立することから始まる。後で触れる、このメカニズムは、「手段-目的の連鎖」と呼ばれる枠組みによってとらえることができる。

購買意思決定には以上のような2つの局面がある。例えば、ビール広告で、スポーツで汗を流した後に、ビールを飲む爽快感を訴求することは、②への対応となり、他社のビールとの比較で、自社のビールにおける優位性を訴求することは①への対応となる。

①消費者情報処理

上述のように、消費者の購買意思決定は2つの局面から成り立っており、以下では、それぞれの局面について検討する。

消費者情報処理のプロセスは、知覚評価という2つのサブプロセスから成り立っている。消費者情報処理にあたっては、

まず、①代替案となる製品サービスに関する情報が収集される(知覚のサブプロセス)。このプロセスでは、目や耳のような感覚器を通じて外部情報を選択しながら取得するとともに、過去の体験、記憶との統合がはかられる。

続いて、②最良と判断される代替案が選ばれる(評価のサブプロセス)。このプロセスでは、知覚された様々な属性の情報を比較して、代替案を評価、選択する。

缶コーヒーA、缶コーヒーB、缶コーヒーC→知覚(情報の選択的取得、統合)→評価(代替案の比較、選択)→購買行動

ボトムアップとトップダウン

知覚あるいは評価のサブプロセスで行われる情報の取得や統合は、実行可能な簡便な手続きによってなされる。その手続きは、以下の2つの組み合わせで行われる。

①ボトムアップ型の処理

対象の属性を網羅的に集め、積み上げ型で知覚と評価を行うというやり方である。例えば、缶コーヒーであれば、パッケージの色、ロゴ、ブランドといった属性を集めて、それらを比較しながら、全体としての知覚や評価に結び付けていくという方法である。

②トップダウン型の処理

実際、ボトムアップ型の処理だけで知覚評価を進めることは難しい。あらゆる属性にかかわっていると処理に時間がかかり過ぎるからである。トップダウン型とは、知覚対象や評価方法をあらかじめ特定化してしまうやり方である。例えば、缶のサイズやブランド名だけを見るといったように特定の対象に絞るのである。

以上のように、限られた時間の中で、様々な商品を選択的に知覚し、評価しようとする際に有効なのは、ボトムアップ型の処理とトップダウン型の処理を組み合わせた対応である。すなわち、トップダウン型の処理によって知覚対象や評価方法を限定しながら、一定の範囲でボトムアップ型の処理を行うという対応である。この2つの処理の比重が変わることで消費者情報処理に多様なバリエーションが生じることになる。

ヒューリスティック

ボトムアップ型とトップダウン型の処理を組み合わせる時に、鍵となるのが、ヒューリスティックである。ヒューリスティックとは、知覚や評価の進め方のルールである。

このように消費者情報処理では、「製品サービスの選択」「ヒューリスティックの選択」という2重の選択が行われる。消費者情報処理とは、ヒューリスティックに従って製品サービスを選択することであると同時に、おかれた状況に応じて、様々なヒューリスティックの中から、どれかひとつを選択することでもあるのである。

また、この2重の選択がどのように行われるかは、消費者がどのような必要や欲求を確立しているかによって異なる。「購買の必要や欲求」の確立は、消費者による購買意志決定の第2の局面であり、消費者情報処理の2重の選択の背後にあって以下の影響を及ぼしている。

①製品サービスの選択への影響
購買の必要や欲求は、その製品サービスに対する消費者情報処理を行うように動機付ける。

②ヒューリスティックの選択への影響
購買の必要や欲求が確立することで、消費者情報処理の進め方が決まる。すなわち、購買の必要や欲求の確立は、消費者がどのようなヒューリスティックを選択するのかにも影響を及ぼす。

関与と知識

一般的に、当該製品に関与(思い入れ、こだわり)の高い消費者は想起集合や拒否集合内のブランド数が多く、関与の低い消費者は共に少ないと考えられる。このように、消費者は多様な情報処理活動を行うわけだが、関与と知識は、これらの活動を規定する。消費者情報処理研究(情報取得、情報統合、情報保持)への動機付けを規定するものとして、関与を、情報処理の能力を規定するものとして知識をあげている。例えば、家電業界の多機能化競争が使わないボタンの多くついたビデオデッキなどを生み出した状況は、関与概念で考えることができる。つまり、家電に関して高関与な消費者にとっては、多機能製品の方が面白く、低関与な消費者にとっては、情報処理の負荷が大きく感じて顧客満足度が低くなる。

ライフスタイル研究

情報処理研究が、消費者をコンピューターのアナロジーとして捉える面が若干あるのに対し、消費者をより全体的な視点から捉えようとするのがライフスタイル研究である。
ライフスタイル研究の代表的な研究としては、VALSプロジェクトがある。

VALSプロジェクト

大規模な消費者調査をすることで、その結果を分析し、①その日暮らし②忍耐派③帰属派④野心派⑤達成者⑥個人主義⑦体験派⑧社会理念派⑨トータルバランス派という9つのライフスタイルを析出している。VALSプロジェクトの特徴は、マズローの欲求5段階説とリースマンの同調様式の類型をもとに構造化した点である。9つの類型は、①その日暮らしから⑨トータルバランス派に至る垂直的な階層構造をなしているが、この点は、生理欲求→安全の欲求→所属と愛の欲求→承認の欲求→自己実現の欲求のマズローの5段階説に基づいている。また、階層構造の途中(帰属派から)、他人志向と内部志向という二重の道筋があるが、これは、行動の基準を他人に置くか、自己に置くかというリースマンの内部志向と外部志向の考え方を取り入れたものである。このようにVALSは、生活者の日々の消費者行動を背景から支える価値観やライフスタイルの大きな流れを把握する上で非常に重要な研究である。


②手段-目的の連鎖(必要や欲求の構成をとらえる)

消費者の購買行動を導いている必要や欲求の基本的な構成は、「手段-目的の連鎖」と呼ばれる構造のもとでとらえることができる。手段-目的の連鎖とは、消費者の必要や欲求を手段と目的の連鎖的な構成物として捉えたものである。

(EX)オフィスの自動販売機コーナーで缶コーヒーを購買しようとしている場面を考えると。缶コーヒーを飲むということは、目的である。しかし同時に、缶コーヒーを飲むことは、会議の合間に気分転換をするといった、さらにその上位の目的の手段でもある。更に上位には、会議での集中力を保つといった目的が考えられ、会議の合間に気分転換することは、そのための手段となる。

しかし、手段-目的の連鎖を分析しても、買い手が製品サービスに対して抱いている必要や欲求について根源的な理由を突き止められないという点には注意が必要である。以下の2つの問題があるからである。

①手段-目的の連鎖はどこまでもさかのぼることができる。
②手段-目的の連鎖をさかのぼることで必要や欲求が相対化されてしまう。

このように、手段-目的の連鎖を用いた分析は、見逃されがちな、購買の必要や欲求の「遇有性(ほかでもありうる可能性)」の問題へと開かれる。


相対化の遮断

手段-目的の連鎖をさかのぼっていくと、そこに現れるのは、製品サービスに対する消費者の必要や欲求の根源的な理由ではなく、その遇有性である。見えてくるのは、消費者の必要や欲求が揺らぐことない確かな基盤に根ざしているわけではなく、逆に必要や欲求には、ほかでもあり得る可能性(つまり遇有性)が常に潜んでいるということである。次に考えなければならないことは、遇有性の中で、いかにして特定の製品サービスに対する欲求を確立するのかという問題である。以下の2点が指摘できる。

①消費者の情報処理能力には限界がある。
一定時間の中で消費者が処理できる情報は有限である。また、消費者がおかれた個々の状況の中で、アクセス可能な製品サービス、それらにかかわる情報が有限である。

②手段-目的の連鎖が、循環する関係のなかで生成する。
消費者が知覚評価を行うプロセスの中で、手段と目的との間に次のような循環的な関係が生成することがある。
(A)タロウは、疲れを感じたので缶コーヒーを飲みたくなった。
(B)タロウは缶コーヒーが飲みたくなったので、疲れていることに気づいた。
このような循環が消費者の心の中で永遠に続いていくわけではないが、少なくともこうした関係がぐるぐる回っている間は、疲れているなという自覚と缶コーヒーを飲みたいという欲求に執着し続けることになる。
以上のようなメカニズムで、消費者意思決定において、なぜ特定の必要や欲求が絶対化するのかを理解することができる。

ポストモダン消費者行動分析

消費者情報処理に代表される従来のモダンの消費者行動分析があまりに認知的、分析的であったという反省に立って、より情緒的、経験的な視点から消費者行動を理解しいこうとするものである。ハーマンとホルブルックは、快楽的消費で方向性を示している。それは、消費それ自体が目的であり、消費すること自体が快楽であるような音楽、絵画、ファッションなどに特徴的な消費である。議論のポイントは、①分析対象の商品カテゴリー②消費者行動の局面の2点に沿って考えられる。①では、ファッション性の高い商品の行動分析を考える時に、従来の分析では不十分であり、主観的経験や感情に基づく新たな枠組みが必要である。②では、従来は、購買の局面に焦点を合わせたものが多かったが、消費者行動を真に理解するためには、購買後の使用行動や廃棄行動まで理解する必要がある。他にも、代表的なものとして、シュミットがいる。彼は、消費者の経験領域を、SENSE(五感)、FEEL(喜怒哀楽)、THINK(考える)、ACT(行動する)、RELATE(他人と交流する)の5つに分け、情緒的で経験的な消費者行動を分析する枠組みを示している。



市場の細分化-多様性への対応

次は、消費者購買を導く意思決定のメカニズムから、どのようなマーケティングマネジメントの指針が導き出されるのかを検討する。

まず、消費者の多様性に目を向ける必要がある。消費者とその購買行動は一様ではない。何を必要としているのか、どのような欲求を抱いているのか、どのようなヒューリスティックを用いているのかが異なると、消費者の購買行動は大きく異なる。

市場細分化マーケティング

マーケティングにあたっては、「消費者が真に求めているものに応える」といった、あらゆる状況に適用できそうなお題目を唱えているだけでは意味がない。むしろ、有用なのは、以下のような、「市場細分化マーケティング」の手順のっとって、消費者のどの必要や欲求に応えるべきか、知覚や評価におけるどのようなヒューリスティックに応えるべきかを特定化するという対応である。

市場細分化とは、製品サービスの用途が同じでも、消費者によって異なる必要や欲求、知覚や評価の方法、あるいは、生活行動などで市場を分割することである。このセグメントごとに異なるマーケティングの手法を市場細分化マーケティングという。

細分化された市場に対する企業の対応には、集中化、専門化、フルカバレッジという3つの選択肢がある。集中化は、特定の市場細分にのみ特化するという対応である。専門化は、自社の強みを発揮できる複数の市場細分を選択するという対応である。フルカバレッジは、すべての市場細分にアプローチするという対応である。

市場細分化の軸

軸の設定は、ダイナミックなプロセスとなる。なぜなら、消費者をタイプ分けするための切り口は固定的なものではないからである。例えば、缶コーヒーは、朝専用モーニングショットは、これまでにない、飲む時間帯という切り口で市場細分化をすることで大ヒットした。

○人口統計的変数 ○社会経済的変数 ○地理的変数 ○心理的変数 ○生活行動上の変数 ○製品サービスの属性変数 (消費財市場)

○産業統計的変数 ○使用状況にかかわる変数 ○組織購買行動上の変数 ○製品サービスの属性変数 (産業財市場)


市場細分化のメリット、デメリット

①メリット
市場細分化によって、マーケティングの手法や活動の効果と効率を高めることができる。また、市場細分化マーケティングを行うことで、市場全体の規模が拡大することがある。

②デメリット
企業のコスト負担を増加させる。製品サービスの種類が増えれば生産工程や在庫の管理が複雑化する。特にフルカバレッジ対応を目指す場合はより深刻になる。


市場細分化で満たすべき3つの条件

①独自性
それぞれの市場細分は、マーケティングの手法や活動に独自の反応を示すものでなければならない。異なる市場細分の間では、必要となる製品の仕様や価格に対する感受性、あるいは、利用頻度の高いメディアなどが異なってくる。

②十分な規模
市場細分は、十分な売り上げと利益が確保できる規模でなければならない。

③確実性
市場細分は、マーケティングミックスの計画、実行、評価を確実に行うことが可能なものでなければならない。セグメントの規模が推定でき、特性からマーケティングミックスのあり方が示唆されることと、過大なコストをかけずに、セグメントに特化した企業活動が展開できなければならない。


消費者をいかにリードするか

マーケティングマネジメントにあたっては、消費者行動の多様性だけでなく、消費者行動が意図せざる行為であることにも目を向けるべきである。そのため、MMは、消費者行動に適応すると同時にリードするという二面的な性格を帯びることになる。

消費者調査を繰り返すことで、企業は新製品、サービスの開発に有用な情報をその節目ごとに手に入れることができるが、消費者調査の結果どおりに進めない方が良い場合もある。こうした問題は、消費者が必ずしも自らの欲求を把握していないからである。需要なのは、消費者調査から現れら消費者の想いの背後に隠されている可能性や予兆を見抜くことである。

消費者行動に対応したマーケティングとは、消費者調査に全面的に従うことではなく、消費者の意向や要望の一歩先を行く提案を行いリードしなければならない。しかし、企業は次のような問題に直面する。消費者行動に対応するには、消費者をリードすることが必要だが、強調し過ぎると、消費者を置き去りにした「マーケティングの独善化」が起こる。独善にならないように様々手立てを講じなければならない。

事業の定義(マーケティング近視眼)

事業の定義は、狭すぎても、広すぎてもいけない。事業の定義を狭く捉えていたために、事業の機会をみすみす逃してしまうという失敗が起こることを、「マーケティング近視眼」と言う。一方、事業の定義を広く捉え過ぎると、事業の拡大志向に歯止めがかからなくなることを「マーケティング遠視眼」という。

マーケティング近視眼

事業を狭く定義し過ぎること。HBSのセオドアレビット教授が名付け親であり、4分の1インチドリルが100万個売れた時に、消費者は、4分の1インチドリルを買いたかったのではなく、4分の1インチの穴が欲しかったのである。

(EX)アメリカの鉄道会社は、「鉄道事業」と定義していたため、飛行機や自動車が発達すると衰退した。もし、鉄道会社が、「輸送会社」と定義して、長距離バスやレンタカー事業を展開していれば市場は拡大していたと考えられる。


事業の定義のポイント

①顧客が本当に求めているものは何か。
(EX)アート引越しセンターは、顧客が本当に求めているものは何かを考え抜くことで、引越し業のイノベーションを起こした。アートは、これまでは、運送業であったが、引越ししようとしている消費者が欲しいのは、トラックでも運送サービスでもなく、「生活の移転」であると気づいた時、引越しビジネスが誕生した。これにより、荷物の運送だけでなく、下見、見積もり、掃除、片付けなどの付加的なサービスをするようになり、荷物を輸送することは、サービスの一部でしかない。

②そもそも何をすべきなのか。
事業の定義にあたっては、何をすべきなのかについてよく考えることが重要である。技術の変化や消費者の要求の変化、さらに競合する製品サービスの変化といった様々な変化によって「何をすべきか」が変化していくことに、企業は絶えず気をつけておかなければならない。

マーケティング遠近眼の罠

マーケティング近視眼を避けることをあまりにも強調し過ぎると、逆にマーケティング遠視眼に陥ることになりかねない点は注意が必要である。

(EX)1960年代のGEは、マーケティング近視眼を避けようとして社内の改革を行った。電線事業部→建設資材事業部、メーター事業部→計測機器事業部、制御機器事業部→オートメーション機器事業部に変更した。しかし、それと引き換えに、広い事業の定義に応えるためには、投資が必要になり、収益を得るまでには時間がかかる。各事業部が自分の事業を賄っていくのは難しくなり、全社的に資金面での余裕が乏しくなる。これが遠視眼の弊害である。それは、PPMの導入である程度解決できるが、事業の定義の重要性は低下するわけではない。同じ製品サービスにかかわる同一の業務に対する資源配分も事業の定義次第で異なってくるからである。

PPMとの関係

どのような事業と定義するかで、PPMから導き出される指針が異なってくる。まず、事業の対象を広くとるのか、狭くとるのかという問題がある。加えて、事業を通じて、「誰に(どのような顧客に)」「何を(どのような機能を)」「いかに(どのような技術で)」提供しようと考えることが重要である。

(EX)スカンジナビア航空(SAS)
SASの顧客満足プログラムは、エアラインサービスに新しい事業の設計図を持ち込むものだった。SASは、まず自社の顧客を「ビジネスマン」と定義し、その満足度の向上を最重要課題とした。そして、提供する機能として、ビジネスマンの満足度を高める鍵は、「時間」であると考え、「定時に出発して定時に目的地に到着する」ことや、「時間を節約する」ことを大事にしていると考えた。そして、ビジネスマンの飛行機への乗り降りを優先的にするために、直行便のスケジュールを増やしたり、機内に荷物は持ち込めるように通路を広げるなど機内設計を変更したりした。
つまり、
誰に→ビジネスマン
何を→時間を節約する。
どのように→機内に荷物を持ち込める。直行便を増やす。

また事業の定義を行うことと連動して、基軸となる経営資源の判別が行われる。この基軸となる経営資源をコアコンピタンスと呼ぶ。

自らの拠って立つ経営資源を明らかにする。

①成長の鍵は何か。
②自社の基軸となる資源は何か。


(EX)富士ゼロックス
富士ゼロは、米ゼロが開発した大型コピー機を大手ユーザーに販売していた。米ゼロは、これに加え、レンタル制度などのコピーサービスを販売しており、これは、顧客が求めているのは、機械ではなく、それが果たす機能だと考えた。対して、富士ゼロは、大型に加え、卓上型の小型コピー機を新たに開発しようとした。
つまり、富士ゼロAは、技術と機能をそのままに顧客の拡大を、米ゼロBは、顧客をそのままに、技術と機能の拡大をはかるという成長路線の違いを表している。

このように、新しい事業の定義の採択が企業の基軸となる経営資源(コアコンピタンス)の判別と連動しているということである。顧客、機能、技術の3つの軸に沿って事業の定義を考え直していくで、将来に向けての成長路線を明らかにすると同時に、自ら拠って立つ経営資源は何かが浮き彫りになっていくのである。また、新しい事業の定義を導入することで、対象市場が異なってくるという問題がある。

事業の定義が異なると、①顧客のタイプやボリューム、②競合する企業、③流通チャネルに求められる用件が異なってくる。

2009年8月7日金曜日

マーケティング資源の配分(PPM分析)

企業は、今日の効率性と明日の成長性をバランスさせながら複数の製品(事業)を組み合わせ、そこから最大かつ、安定した収益を得ようとする。これを製品ポートフォリオと呼ぶ。

何が事業の収益性を決めるのか?

事業の資源配分について考えることの重要性を明らかにした古典的研究プロジェクトに、PIMS(Profit Impact Of Market Strategies)プロジェクトがある。文字通り、市場戦略が収益にどのような影響を与えるかを明らかにすることを狙いとした。プロジェクトが始まった背景は、複数の製品や事業を持つ企業が増えてきたこと、製品や事業のライフサイクルのスピードが速くなってきた、多くの産業が成長期から成熟期へ移行し、総花的な資源配分では、企業の存続や成長が危ぶまれるようになったことが挙げられる。
PIMSプロジェクトの成果として、大きなものは、相対市場シェアが高くなると、投資収益率とキャッシュフローのいずれも増加するというものだった。


なぜ市場シェアが大きくなると収益性が高まるのか?

市場シェアと利益率の間に正の関係が見られるのは、市場シェアの増大によって様々な間接的メカニズムが働き製品サービスの単位あたりコストが低下するからだと考えられる。そのメカニズムとは以下の2点である。

①規模の経済性

事業の規模が拡大するにつれて、製品サービスの単位当たり生産コストが低下することをいう。もちろん、この関係は永遠に続くわけではなく、どこかで臨界点に達するが、生産拠点や活動単位を分割することで、乗り越えられる問題である。また、規模の経済性が起こる要因は以下の通りである。

A設備の大規模化。B間接費負担の軽減。C調達コストの低下である。

②経験効果

経験を積んだ集団のほうが、その仕事の経験が少ない集団よりも、効率的な仕事を行うことができるという効果である。経験効果は、累積生産量を代理指標とすることで数値化できる。一般的に、累積生産量が2倍になるごとに、単位当たりコストが10~30%低下するという関係が見られると言われる。経験効果を生み出す主要な要因は以下の通り。

A習熟を通じた能率の向上。B生産工程や生産設備の改善。C投入要素の変更。D製品の設計変更。
また、規模の経済と経験効果には重要な相違点がある。生産コストの低下が、規模の経済では、生産量という関数に対して、経験効果では、累積生産量の関数となる点である。つまり、前者は、スタティック(静学的)なものであり、後者は、時間の流れで生じるダイナミックな現象である。


規模と経験効果を活かしたマネジメント

①市場シェアの拡大がもたらす好循環

→業界最大シェア→業界最大の累積生産量→規模、経験効果→業界最低の平均コスト→業界最低の価格レベル→

②市場シェアを拡大する時期の限定

→規模、経験効果はある程度までいくと効果は乏しくなるため、市場シェアの拡大によるコスト削減効果が低減し始めたとき、市場シェア拡大を至上命題とするマーケティング目標を変更する時である。このように、規模や経験効果が働く事業では、市場シェアの拡大を至上命題とする時期と、シェアよりも利益を追求する時期に分けて考えることが必要である。

③経験の蓄積を進行させるための組織デザイン

→自社のスタッフが一定の作業を反復して経験するように組織や作業工程のデザインを工夫することによって、経験効果をより享受できる。

④革新的な製品、製法の戦略的な活用

→低シェア企業が、高シェア企業の優位性を切り崩していくポイントが明確になる。つまり、既存の製品、製法のもとで蓄積された経験を無効にするような状況を作り出すことである。その鍵となるのが、製品や製法のイノベーションである。


製品ポートフォリオ管理

製品(事業)間の資源配分を検討する際に使われるのが、製品(事業)ポートフォリオ管理(PPM)である。製品間の資源配分を行うには、1つ1つの製品について、投資を続けるべきか、撤退すべきか、あるいは、投資を続けるなら、どのくらいの水準の投資を行うのかを決めなければならない。PPMは、この意思決定を統一的な枠組みのもとで行うための手法を提供してくれるのである。


PPMの考え方

上記で記述したように、市場シェアと利益率には相関関係があり、市場シェアの大小は、事業のコスト面に重大な影響を及ぼす。このように、自社に事業の市場シェアと市場の成長率を把握することで、その事業にどれだけの資金が必要で、どれだけの資金がその事業から得られるのかということについて、おおよそのめどを得ることができる。
縦軸に、市場の成長率、横軸に、市場シェアのマトリックスを作ることで、製品ポートフォリオを捉えるための枠組みが出来上がる。そこで出来る4つのセルを以下で説明する。


①金のなる木(事業利益/資金供給/シェア維持orシェア刈り取り)

第3象限に位置する事業群は、市場シェアが高く、市場成長率は低い。したがって、利益率は高い。また、この状況では、成長率が低く、多額の投資が必要ないため、資金流入が多く、流出が少ないために、余剰資金が生じる。おそらく、資金が不足している他の事業へ、余った資金を供給することができるはずである。

②問題児(成長or撤退/次世代のスターor資源移転)

第1象限に位置する十行軍は、金のなる木と対照的で、市場シェアが低いため資金流入量が少ないが、市場成長率が高いため、資金流出量は多い。したがって、資金バランスの悪い事業と言える。その後は、撤退して赤字の累積を防ぐか、多額の投資を行い市場シェアを拡大し、バランスを取るのか選択しなければならない。

③スター(市場シェア/成長(次世代の資金供給)/シェア獲得)

①と②の中間にある事業群は、スター、負け犬と呼ばれ、第4象限に位置するのはスターである。スターは、市場成長率が高く、多額の投資が必要となる半面、市場シェアが高く利益率も良いので実入りも多く、活気のある事業である。企業の将来の発展の可能性を担う期待の星である。

④負け犬(撤退/余剰資金の移転/シェア刈り取り)

第2象限に位置する事業は負け犬と呼ばれ、敗退を余儀なくされた事業である。利益率は低く、資金流入は少なく、将来大きく成長する可能性も低いので、新たな投資も必要ない、可もなく不可もない事業である。

PPMの活用(HOW)

①全社的な資源配分を行う際の枠組みとなる。

→PPMを用いることで、統一的な視点で、製品間の資金の流れをデザインできるようになる。例えば、資金が余る「金のなる木」から、資金が慢性的に不足する「問題児」あるいは、「スター」に資金が移転される。

②事業ごとの目標を明らかにする。

→例えば、金のなる木では、いっそうのシェア拡大は望まれないだろう(市場シェア維持戦略)。また、ある程度はシェアを犠牲にして、利益創出が求められる場合もある。

以上のように、企業は、PPMを導入することで、単一の事業では解決できない問題を複数の事業の組み合わせと、その資源配分によって解決できるのである。


PPM導入理由(Why)

①成長と資金管理のバランスを取る。

→GEのマーケティング近視眼の回避を行った結果、マーケティング遠視眼に陥り、資金需要が高まり、資金不足に陥った。

②長期と短期の経営目標を調和させる。

→PPMは、適正な資金管理をしつつ成長をはかるための手法である。金のなる木で収益を確保する一方、未来を支える成長候補として、スターや問題児に投資することで、長期の課題と短期の課題を調和させることができる。

③変化に対応する。

→PPMを導入することで、変化の激しい市場環境に対する企業組織の対応能力が高まる。

④現場と本社の対話を促す。

PPMは、現場の判断と本社の投資判断との食い違いを浮き彫りにし、その解決に向けた健全な対話を促すものである。

マーケティング組織

組織デザインの要件

組織をデザインする時に考えなければならない基本要件は3つある。

1つは、組織の諸活動をどのくらいまで役割(職務)として「分業」させるかという問題である。また、分業する理由は、3つあり、A仕事を単純化する。B仕事の熟練度が高まる。C段取り替えのコストを削減するからである。

2つめは、よく似た機能を結びつけて、どのくらいまでグループ化するかという「部門化」の問題である。
組織が大きくなれば、調整コストが高くなるため、部門化する必要がでてくる。そして、部門化することのメリットは、A関連が強い業務が集まるので、それらの調整が密に行われ、調整が徹底されること。B部門間の調整は、各部門の代表者に委ねることが可能になるため、調整コストが一段と下がる。

3つめは、役割間の指揮命令(意思決定の権限)関係をどのように決定するかという問題である。役割の分業が「組織における横の分業」であれば、指揮命令関係の設定は、「組織における縦の分業」と言える。
意思決定レベルの分業は、「集権化」「分権化」と言い換えることができる。集権化とは、意思決定を組織の上の階層で集中して行うことであり、分権化とは、意思決定の権限を下の階層に委譲することである。つまり、3つめの要件は、集権化と分権化のバランスをどのように取るかと言う事ができる。

集権化された組織は、トップマネジメントで集中的に意思決定が行われるので、部門間やグループ間での調整をきちっと行うことができる。集権化が適しているのは、変化の少ない環境のもと、仕事の安定性や正確性、信頼性を追従していく場合だと考えられる。

分権化された組織では、権限委譲により、現場に近いところで意思決定が行われるので、市場や技術の変化にすばやく対応することができる。だが、分権化し過ぎると部門間での調整が困難になる。分権化が適しているのは、流動的な環境のもとで、仕事の迅速さや柔軟性、創造性を追求していく場合である。

マーケティング組織の発展プロセス

営業、広告、市場調査、製品開発などの業務を遂行するマーケティング組織の構造は、時代を経て変化してきた。製造部門を中心とした単一職能組織から、販売業務が部門化し、細分化していくことで、現代のマーケティング組織は出来上がっていった。

①製造部門を中心とした単一職能組織
20世紀初頭の供給不足の経済において、不足する生活必需品をいかに安価で提供できるかとうい課題に取り組んだ。大量生産方式は、こうした取り組みの中から生まれ、製造部門を中心とした単一職能組織を採用していた。また、この組織の特徴は、マーケティングや販売は、製造活動の付随的なものと捉えられていたため、マーケティング業務が、財務会計、製造部門などに分散している。(組織図はp123)

②マーケティング業務の分業化、専門化
やがて経済が発展し、供給力不足が解消すると、逆に需要が不足してくる。市場は売り手市場から買い手市場へ移る。その中で2つの重要な変化が起きる。1つは、企業におけるマーケティング業務のさらなる分業化であり、2つめは、その結果として起こる統合化の動きである。(組織図はp124)

③マーケティング業務の統合化
専門化と共にマーケティング業務の統合化が起こる。専門化により、それぞれの業務は独立した部署に委ねられるようになった。また、マーケティング業務の専門化と同時に、それらを統合するために、階層的な組織構造が採用されている。(p125)


マーケティング業務の専門化と統合化

現代の企業に見られる組織デザインの骨格は、「職能志向の組織」「市場志向の組織」という2つの基本型を組み合わせることによって成り立っている。

①職能志向の組織
営業、広告、市場調査、製品開発といった担当する業務あるいは、職能別の部門に分割することができ、職能に基づいて分割編集さえた組織を職能別組織と呼ぶ。また、以下の利点がある。
A職能がひとまとまりになり、マーケティング組織内での業務の重複を排除できる。B各職能における規模の経済を追求できる。C職能が専門化することで専門的な技能を深めることができる。D部門がおおきくなれば内部でのより専門的な分業が可能になる。
メリットは多くあるが、職能志向が通用するのは、企業が取り扱う製品サービスの数が少なく消費者ニーズの多様性が乏しい場合、消費者ニーズが変わることなく安定している場合である。

②市場志向の組織
職能志向の限界を克服するためには、職能別の縦割りではなく、製品、サービス、販売地域、あるいは顧客と言った対象市場との接点に注目して、編成された組織を市場志向の組織と呼ぶ。製品カテゴリー別は、食品メーカーであれば、乳製品、調味料、冷凍食品といったカテゴリー分野毎に担当者を置く。販売地域、顧客別の組織の典型は、カルビーで、日本を7つの地域に分けて、それぞれの地域ごとに事業部を置いている。顧客別の組織は、例えば、ある大手食品メーカーは、業務用部門と一般消費財部門に分けている。取引先が違えば、ニーズも大きく異なるため、顧客別の組織を採用している。


マーケティング組織のトレードオフ

職能志向の組織と市場志向の組織にはトレードオフの関係がある。市場志向の組織では、職能志向の組織の限界を超える利点が多くあるが、問題点もある。1つは、企業の中で類似した業務が重複して行われたり特定の地域や顧客の要求に過剰反応してしまったりしやすい。2つめは、職能単位での規模の利益や専門的な技能の蓄積という点でも犠牲が生まれる。業務間の調整が容易になる代わりに、業務の集中化や専門化というメリットが犠牲になる。

市場志向の組織の基本類型

①事業部制組織

市場志向の組織の原理に最も忠実な組織タイプだと言える。製品、サービス、販売地域、顧客などを括りとして、事業部と呼ばれる組織単位を設定し、この事業部の中に関連する職能をを配置し、自己充足単位化をはかるというものである。事業部制組織を考える時に、第一に考えなければならないことは、事業部のくくりとなる事業分野を何を中心に定義するかという問題である。第二の次元は、企業の全ての業務を事業部に配分するのか、それとも一部の業務は本社に残すのかという問題である。

事業部制の限界

1つは、業務の専門性を高めることが困難になることが挙げられる。そのため、実際は、事業部に組み込む業務範囲を限定するなどしている。2つめは、生産設備や研究開発に関する投資が複数の事業部で重複して行われたり、事業部間での広告イメージが散漫になるなどの問題がある。3つめは、市場環境や企業全体の経営方針の変化により、事業の括りそのものを見直そうとする場合にも事業部制組織は難点がある。

②プロダクトマネージャー制度

職能別組織に横ぐしをさすように特定の製品の責任者が営業や広告、市場調査や製品開発、さらには、生産や調達、研究開発などの各部門の調整を行い、その製品に関する全体的な業務の進行を統括するというものである。

③マトリックス型組織

PM制度の限界は、開発や工場の営業の各部門に対して直接の権限を持たないことである。PMに自らの資源を自由に用いる権限を与えようとしたのが、マトリックス組織である。マトリックス型組織は、言わば、組織を統括する1つの軸を「事業分野」とし、もう1つの軸を「職能」とすることで、事業分野と職能で2元的に組織を編成するというものである。つまり、製品別、顧客別といった事業のくくりで職能を統合する一方で職能単位でも企業全体にまたがる調整や配置が行われる。
ただし、難点がある。1つは、二重の命令系統が存在することである。2つめは、多数のマネージャーが必要になるためコストがかかるという問題がある。

2009年8月2日日曜日

流通、プロモーション戦略

マーケティングマネジメントにおいて、開発の局面を「価値形成」、普及の局面を「価値実現」と呼んでいる。「価値実現」における、「流通」「プロモーション」の問題を取り上げる。流通とプロモーションは、開発された製品サービスを広く社会に普及させることに関わる。

企業が産出した製品サービスが、顧客の手元に渡るまでの流通経路は流通チャネルと呼ばれる。

流通チャネルの機能

①物流
工場で生産された製品が倉庫や店舗を経由しながら最終的な顧客の手元へと配送されていくことである。物流は作り手と買い手との間で生じる空間的、時間的ギャップを埋める役割を果たす。

②情報流
保管や輸送をスムーズに行うには、さらに、情報の流れ、すなわち、「情報流」もマネジメントしなければならない。作り手と買い手のの間にある様々なギャップを解消しなければならない。例えば、製品の保管や輸送を効率的に行うには、正確な受発注情報のやり取りが不可欠である。また、販売予測の精度を上げることも重要である。近年では、情報システムを導入することで、保管や輸送の管理を一元化し、その精度を向上させようとするサプライチェーンマネジメントの動きが盛んである。

③商流
売買あるいは、取引の流れを「商流」という。流通チャネルを構築する際には、工学的に見ても効率的な物流を構築することは重要であるが、その仕組みに流通業者が介在する場合は、彼らとの取引であるということを忘れてはいけない。取引である以上、相手にとってもメリットのある提案でないといけない。

流通チャネルの類型

流通チャネルの長さ

流通チャネルにはいくつかの類型があり、製品サービスの生産開発を行う生産者、卸売業務や小売業務を行う流通業者、そして保管や輸送を行う物流業者によって構成される。


チャネル①生産者――――――――――――消費者

生産者自ら直接最終的な消費者に販売する方法である。生産者が直営店舗を経営したり、訪問販売、インターネットなどを活用した通信販売を行ったりする方法である。例えば、化粧品業界では、ノエビアやファンケルがこの方法を採用している。

チャネル②生産者――――――小売業者――消費者

生産者が卸売り業務までを兼ねて、販売業務を流通業者に委ねる方法である。化粧品業界では、精度品メーカーの資生堂やコーセーはこの方法を採用している。

チャネル③生産者―卸売業者―小売業者―消費者

生産者は、卸売り業務と小売業務の全てを委ねる方法である。化粧品業界では、一般品メーカーのマンダムや日本リーバはこの方法を採用している。

以上のような流通チャネルの中でどの類型が優れているかは、ターゲットとなる最終顧客、取引先となる流通業者、自社の経営資源などの条件によって異なる。尚、卸売り業務は複数の業者による多段階のネットワークとなる場合がある。特に、小売業者だけでなく生産者、消費者の数が多い場合、多段階化が生じやすくなる。それは、生産者から消費者に商品が届くまでにかかるコストが高くなるので、多段階化することで、コストを分散していると考えることができる。


流通チャネルの幅

チャネルの段階数が決まったなら、各段階で用いられる仲介者数を決定しなければならない。

①排他的流通政策(数は少ない、コントロール強い、高級品など専門品に適している)
流通業者の数を少なくし、厳しく制限される。高級商品などでは、自社ブランドのイメージをコントロールする必要があるため、生産者は特定のエリアにおける仲介業者数を絞り込み、強力なリレーションを築き排他的に製品を販売してもらおうとする。

②選択的流通政策(数は中程度、コントロール中程度、衣料品、家電製品など買回り品
この考え方のもとでは、取引を希望する仲介業者の中からいくつかが選択される。重要度の低い仲介業者は選択せず、選択したメンバーと良好な関係を構築しようとする。

③開放的流通政策(数は多い、コントロールは弱い、スナック菓子、日用品など最寄品
できる限り多くの仲介業者との取引が進められる。チャネル数が増えすぎると、値崩れが進んだり、既存チャネルとの軋轢が生まれたり、ブランドイメージが低下するため、やがて顧客からの支持を失うことになりかねない。

流通チャネルの深さ(統合)

垂直的マーケティングシステム

各チャネルメンバーは互いに独立した存在であるため、各メンバーは自らの利益を優先させるため、チャネル全体の効率が損なわれやすい。これに対して、各業者が統合されたシステムとして機能するチャネルのことである。

①企業型VMS(コントロール、投資負担、リスク
複数の段階が、特定の企業資本によって、統合されている場合である。例えば、ナイキや花王などの製造業者は、独自の卸売り部門や販売部門を運営している。

②契約型VMS(コントロール、投資負担、リスク
チャネルにおける複数の段階が契約によって統合されている場合である。共同出資により、事業体を組織し、卸売りや生産活動を展開するコーペラティブチェーン、フランチャイザーというチャネルメンバーのもとに統合されたフランチャイズチェーンなどがある。

③管理型VMS(コントロール、投資負担、リスク
ある特定のチャネルンバーのパワーによってチャネルの各段階が調整されている場合である。圧倒的な市場シェアを持つ製造業者や、膨大な販売力を持つ小売業者が自らの強大なパワーによってチャネルを統合することができる。

流通チャネルのデザイン(意思決定問題)

チャネルをデザインする際に、自社で構築(統合)するのか?他者に委ねるのかを検討しなければならない。それでは、なぜ、生産者は自社の製品サービスの販売を流通業者に委ねるのだろうか?それは以下のメリットがあるからである。

①消費の小規模分散性への対応
製品サービスの生産の拠点は、特定の場所に集約されるが、製品サービスの消費は、地理的に広い範囲で分散して行われるため、個々の買い手の購買力は、生産規模に比べてはるかに小規模であり、この小規模分散性に対応しなければならない。この時、全国津々浦々に点在している流通業者を活用することで対応できる。

②資金調達とリスクの負担の軽減
小規模分散性に対応するために、多数の販売拠点を構えなければならず、自社で構築するには莫大な費用が必要になるため、既存のネットワークを活用すれば費用が抑えられる。

③スピーディーな展開
流通業者を自社で構築するには、資金の問題に加えて、スピーディーな対応という点でも問題がある。
④社会的品揃えの実現
生産者が生産される商品のみを販売する店舗は消費者にとって魅力的だとは言えない。流通業者に委ねることで、消費者にとって魅力的な品揃えを形成できる。

⑤取り引数節約
製品サービスの販売を生産者と消費者が直接行う場合、複数の生産者と接触しなければならないが、流通業者が介在すれば、品揃えが形成されているため、1度の接触で商品の比較検討、購入ができる。つまり、取り引数が節約される。

逆にデメリットは、店頭での販売価格、販売方法をコントロールする権限販売データを収集する権限、売れ行きを見て店舗間で商品を入れ替える権限、販売における収益の一部を断念することに繋がる。

以上のことを考慮にいれ、多くの企業は、流通業者を全面的に流通業者に委ねるのではなく、自社で管理する部分と、委ねる部分を混在させるパターンが多い。

また、統合か取引かのトレードオフに関しては、取引対応
(http://maki-jun77.blogspot.com/2009/08/blog-post_11.html)で扱っている。


プロモーション

メッセージの選択

製品サービスが購買されるためには、流通の問題に加えて、その情報が買い手に行き渡っていなければならない。プロモーションは、製品サービスにかかわる情報を多数の人々に向けて発信する活動である。優れたプロモーションを展開するためには、活動の戦略的なデザインが必要となる。基本的に2つの問題を考慮しなければならない。

①何を伝えるのか(メッセージとして何を語るか)の選択
②どのように伝えるか(メディアをどのように組み合わせるか)の選択


プロモーションのメッセージを導き出すための主要な視点

①製品サービスの特徴そのものの特徴をとらえる。
→製品サービスの名称、属性、便宜、イメージ、理念など。
②製品サービスと顧客との関係をとらえる。
→用途や使用シーン、ターゲットとしている顧客のタイプなど。
③製品サービスを提供する企業の特性を伝える。
→製品技術、生産技術、経営理念、歴史など。
④他社の製品サービスとの競争関係をとらえる。
→競合する製品に対する優位性、差別性など。

メッセージの戦略的な戦略

戦略的に優れたメッセージを選択するには、そのメッセージが以下の3つのポイントを満たしていることを検討すべきである。

①ターゲットとなる買い手に対する訴求力がある。
②競争相手が模倣することの困難な優位性が確立される。
③マーケティングミックスの他の要素との整合が取れている。

メディアの選択~プロモーションミックスの構成要素~

メッセージを戦略的に策定することに加え、策定したメッセージをどのように人々に伝えていくかを考えなければならない。その手段は以下の4つのメディアがあり、プロモーションミックスと総称される。

①広告活動(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ポスター、看板、DM、インターネット、折込み広告)
→多くの人々の視聴するメディアや、多くの人々の集まる場所に時間やスペースを確保し、料金を支払って自社の製品サービスの情報を提示する活動である。現在では、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアを用いた広告が主流だが、インターネットのポータルサイトやイベント会場などのメディアもある。

②PR活動(プレス、学会、協賛、年次報告書、社内報、財界活動)
→広告活動と異なり、間接的にメディアを利用するものである。PR活動の中心は、テレビ、新聞、雑誌などの番組や記事として取り上げられることを狙った様々な情報提供活動である。PR活動は、信頼性が高いという利点があるが、企業が発信したいメッセージをコントロールできないところがデメリットである。

③人的販売(販売員による商品説明、推奨、カウンセリング販売)
→人的販売は、営業担当者や販売員など人を介した顧客との直接的な会話を通じて情報を提示する活動である。生産財を扱う企業は、人的販売がプロモーションの中心になることが多い。

④セールスプロモーション(クーポン、おまけ、懸賞、サンプル配布、商品展示、小冊子、見本)
→製品サービスにかかわる情報を伝えるための活動で上記の3つに属さない活動の総称である。製品サービスを直接見たり、触ったり、使ったりする経験を与えることで、製品に対する理解度を高めようとする活動が数多く含まれる。

統合化されたマーケティングコミュニケーション

上述したプロモーションミックスは、企業が人々に製品サービスに関わる情報を伝達するための中心的な手段であるが、伝達手段は、プロモーションミックスに限定されるわけではない。
製品の素材やデザイン、店舗の立地やインテリア、標準的な価格帯や値引き率などを通じても、製品サービスの在り方は伝わっていく。このようなプロモーションミックスの範疇を超えたマーケティングミックスの諸要素を総動員したコミュニケーションを「統合型マーケティングコミュニケーションIMC(Integrated Marketing Communications)」と呼ぶ。

(Ex)無印良品やザボディショップのようなコンセプトショップでは、店舗の雰囲気、陳列、価格帯、包装紙のデザインを通じて、人々は無印良品やボディショップとは何かを感じとることができる。

また、IMCが発展した要因として、マス広告の地位低下、インターネットの発達、広告効果に対する説明責任の高まりが挙げられる。現在のIMCは、単なるMCの統合ではなく、真の顧客視点で統合が進められている。

製品、価格戦略

第一章で提示したマーケティングマネジメントのエッセンスは、製品、価格、流通、プロモーションを内的、外的に整合化するという考え方である。ここでは、製品、価格に関わるマーケティングの主要な問題を検討する。

①製品、サービス(product)とは何か?

顧客が抱えている問題を解決すると考えることができる。マーケティングでは、製品サービスを顧客との関係で捉えるので、このとき、製品サービスは、顧客の抱えている問題を解決する「便宜の束」としてデザインされる。

(EX)コカコーラの買い手は、コーラの物理的特性というよりは、「喉の渇きを癒す」「爽快な気分を味わう」と言った便宜を手に入れようとしているのである。 自動車の買い手は、「スムーズな移動」「快適な空間」「自分らしさの表現」を手に入れようとしている。 ホテルは、「快適な眠り」「贅沢な時間」「旅先での連絡の場」 。

以上で挙げたのは、製品サービスを使用する局面における便宜である。だが、便宜の束を捉えるには、もう少し視野を広げるべきである。すなわち、顧客にとって製品サービスとは、認知し、取得し、使用し、廃棄するものである。したがって、製品サービスに対する顧客の評価は、使用時だけのパフォーマンスで決まるわけではない。

製品サービスの構成要素

顧客は、基本的に製品、サービスそのものを必要として購買を行うのだが、そのためには、パッケージングや、アフターサービスといった付加的な要素が不可欠な場合がある。例えば、シャンプーは、パッケージングのおかげで、セルフサービス形式の店舗で購入できるし、ルームエアコンなど、取り付けサービスが必要な商品もある。

このように、付加的な要素も含めて、製品サービスを捉えることで、企業が顧客に提供しようとしている便宜を、より包括的に検討しデザインすることができる。また、販売する際には、付加的な要素をセットにして販売するのか(バンドリング)、別々の製品サービスとして販売するのか(アン・バンドリング)という問題についても検討しなければならない。

新製品、サービスの開発プロセス

優れた技術を開発することと、それを製品、サービスとして市場に送り出すことの間には大きな隔たりがある。この両者の隔たりを埋めるのが、新製品、サービスの開発プロセスである。以下の手順で行われる。

Aアイデアの創出・・・まず優れたアイディア候補を数多く蓄積することが望ましい。
Bコンセプトの開発・・・アイディアを買い手が製品サービスとして欲しがる「コンセプト」へと変換する。
C技術収益性計画・・・便宜の束を製品として具体化するためには、技術的裏づけが必要である。
D製品サービス設計・・・製品コンセプトに合致した製品サービスを生産するためのマニュアル作成。
E要素技術開発・・・・・・・新たに必要な部品や技術を自社で調達する場合は、その設計が必要。
F工程設計と生産準備・・他企業から調達する場合は、具体的交渉し、試作品作成。
G市場導入・・・・顧客との関係を創り出すために、価格、チャネル、プロモなど様々な手法が動員される。

開発における組織デザイン

A新製品サービスの開発プロセスは、直接的に進行するわけではない。
B開発ステップは、並行的に進行する。
C開発プロセスでは、組織的な協働がが重要となる。
D開発は、組織に開発能力を蓄積するプロセスでもある。


アソートメントのデザイン

多くの企業は、同時にいくつもの製品サービスを提供している。この群としての製品サービスのラインナップをどのように組み立てるのかを考えなければならない。こうした組み立てを「アソートメント」という。
アソートメントは、企業が扱っている製品サービスをラインの数(カテゴリーの数)と、各ライン内のアイテムの数とによって捉えることができる。前者を、ラインの広がり、後者をラインの奥行きという。(P65)

また、アソートメントを考える時には、以下の2つの問題を検討する必要がある。

①新製品サービスは、自社のアソートメントの中でどのような位置付けか?
②新製品サービスは、単一のアイテムで市場に導入するのか、それとも複数のアイテムからなるラインとして市場に導入するのか?

アソートメントの優位性

アソートメントの全体的な構成に関しても内的外的一貫性を確立しなければならない。重要なことは、アソートメントに着目することで、個別の製品サービスを開発するだけでは解決できない問題への対応が可能になることである。つまり、アソートメントの巧みな構成がビジネスの機会を拡大するのである。

(EX)トヨタ自動車は、価格の異なる多様なモデルを生産することで、多様な顧客に対応できるだけでなく、買い替え時に、顧客がより高価格の製品にグレードアップするように誘導することができる。(クラウン→レクサスetc)


②価格の役割

なぜ価格のデザインを行うのか?
顧客との関係を創造維持するためには、企業は製品サービスの開発、改善に加えて、価格のデザインにも取りくまなければならない。いかに優れた製品であっても、価格が適切でなければ購入されない、また、価格の設定を通じて製品に対するプロモーションの効果を高めたりできる。
一般的には、価格デザインは、製品サービスの価格をどの水準に設定するかという問題である。生産に同じ費用がかかる製品サービスであっても、価格を高くすれば良い場合もあれば、低くする方が良い場合がある。

基本的価格設定

(A)コストに基づく価格設定

◎コストプラス法
一定の利益率をコストに上乗せして価格を設定する。
◎損益分岐点を用いた価格設定
損益分岐点とは、販売数量が増加していくことによって、赤字の状態から利益が生まれる黒字に変わるまさに分岐点であり、分岐点を用いて価格の設定を検討する。

(B)需要に基づく価格設定
売り手のコストではなく、需要面=ベネフィットに対する買い手の知覚に基づく。

(C)競争に基づいた価格設定
競合製品つけられている価格にあわせて設定。実勢価格は、市場での力関係やブランドイメージが加味されるので、競争製品より高価格に設定する場合もあれば、低価格に設定することもある。


戦略的価格デザイン

マーケティング担当者は、様々な状況の中で、適切な価格水準を見極め、その実現に向けて様々な活動に取り組むことを求められる。この時、担当者が検討すべき3つの関係がある。

A需要の価格弾力性

製品サービスは、高すぎても、低すぎてもいけない。高すぎれば需要が見込めない価格になるし、低すぎれば、利益が見込めない価格になるからである。この上限と下限を認識することが価格設定の出発点である。

需要の価格弾力性とは、価格の変動に対する需要の反応の度合いのことである。価格の変動に対する需要がほとんど変化しないことを価格弾力性が低い、非弾力的といい、大きく変化することを価格弾力性が高い、弾力的であると言う。

価格の弾力性に大きな影響を及ぼすのが、「代替的な製品サービスの有無」である。代替製品が多くあれば、価格を引き上げると需要の多くが代替製品に流れてしまう。逆に価格を下げると、需要を吸引することで、販売量を大きく伸ばすことができる。

(EX)マクドナルドが、「平日半額セール」を開始し、130円→65円に値下げしたのである。その時、ハンバーガーの販売額が4.8倍に増加し、売上額は倍増した。これは、ハンバーガーが価格弾力性が高いために、価格を大幅に下げることで需要が増加した典型例である。

B価格に依拠した価値の推定

上記とは逆に、価格を引き上げることで需要が増大することがある。製品サービスの効能や機能が分かりにくい場合に行われやすい。価格が高いことは、製品サービスが優れた機能や効能を備えていることの代理指標となる。そのため、場合によっては、価格を高くした方が、購買が促進される現象が起こる。

(EX)クラッシックコンサートのチケットの価格を引き上げたところ、かえって客足が伸びたという事例がある。それは、買い手が価格を拠りどころとして、サービスの品質を推定しているからだと考えられる。つまり、価格に依拠した価値の推定が行われたのである。また、ルイヴィトンなどのブランド品も同じと考えられることができる。

Cマーケティングミックスとの連動

需要の価格弾力性は、長期的に見た時、固定的で動かしにくい前提ではなくなる。企業は、様々なマーケティングの手法や活動を通じて、自らが直面する需要に影響を及ぼすことができる。なぜなら、マーケティング活動には、製品サービスに対する買い手の評価を構成することで、価格弾力性のあり方に影響を及ぼしていく効果があるからである。

加えて、価格のデザインにあたっては、価格がマーケティングミックスのほかのカテゴリーに属する諸要素の働きをサポートするという逆方向の関係も考慮しなければならない。例えば、ディズニーランドでは、パスポートに高い割引率を適用し、土産品に財布を開くことで、トータルで利益を上げている。

マーケティングミックスとの連動を考慮すると様々な価格設定モデルが考えられる。

①補完的価格設定(製品)
本体製品とは別に、定期的に必要な消耗品が必要な場合、本体は低価格で販売し、消耗品の利幅を大きくすることで、トータルで利益を上げるというものである。例えばプリンターとインクである。

②定額制・従量制価格設定(ターゲット)
製品サービスの利用頻度が異なると、顧客にとって魅力的な料金プランが異なってくる。例えば、通信などのサービス事業は、利用のたびに課金する従量制に加え、使用頻度が高い人向けに、使い放題の定額制が採用されている。

③ゾーン価格設定(流通)
空間的に分断された異なる条件の場所に製品サービスを流通させる際に、異なる価格を適用するといったものである。例えば、同じ青果物でもスーパーで日用品として購入する場合と、百貨店で贈答品として販売するのでは、価格弾力性は大きく異なる。これは、飲料品で、スーパーとスポーツスタジアムで販売価格が異なるといった現象と同じである。

④イメージ価格設定(プロモーション)
類似した製品サービスに対してプロモーションや販売店舗や付加的なサービスなどの違いで異なるイメージを確立し、異なる価格で販売するというものである。

その他の価格設定

◎心理面を考慮した価格設定

①端数価格
消費者は、6000円→5980円という価格に対して、最大限に値引きされていると感じる傾向がある。食用品、日用品に多く用いられる。
②威光価格
消費者は品質を判断する基準の1つとして価格を用いることが良くある。そこで品質の高さやステータスを消費者へ訴えかけるために、意図的に高く設定する。例えば、ロレックスなど。価格に依拠した価値の推定と同じ。
③慣習価格
缶入り清涼飲料のように、いくつかの製品においては、社会慣習上定まった価格が設定される。

◎割引
①現金割引

現金で受け取ることにより、早い段階で現金が回収でき資金繰りがよくなるため、金利面やコストで有利になる。
②数量割引
一度に多く購入した買い手には、1単位あたありの価格を引き下げる。
③機能割引
相手によって異なる価格が設定される。多くの機能を遂行する相手には、有利な価格を設定する。
④特売価格、特売季節割引
特売価格を設定することで需要が拡大する。また、季節割引は、需要の少ない時期には、価格を下げ、需要の多い時期には、価格を上げる戦略である。

◎新製品の価格
①上澄み吸収価格(スキミング)・・・早期に利益を得る。
②市場浸透価格(ぺネトレーション)・・・早期に市場シェアをとる。

マーケティングマネジメント

マーケティングとは?

企業が顧客との関係の創造と維持を様々な企業活動を通じて実現していくこと。

マーケティングミックスとは?

マーケティング、すなわち、顧客との関係の創造と維持にあたって、企業が用いる手法や活動の総称、集合。「製品」「価格」「流通」「プロモーション」の4つのカテゴリーに分けて考えられるのが一般的である。また、それぞれの頭文字をとって4Pと言われる。

マーケティングマネジメントとは?

顧客の創造と維持における、4P戦略において、内的に整合がとれるとともに、外部環境とも整合のとれたマーケティングミックスを実現するためのマネジメントである。

なぜ4つのPを用いるのか?

4Pという枠組みを分析に用いることの意義は、①バランスの取れた理解と対応が可能になる。②統合的な認識や実践が生まれることである。

統合を生み出す2つの一貫性(内的、外的)

①内的一貫性

4Pの個々の要素が相互に整合の取れたものになっていること。

(EX)Aプッシュ戦略Bプル戦略

A生産者が高マージンで流通業者に製品を押し込み、さらに流通業者推奨によって買い手に製品を販売するという、川上からのプッシュにより、取引の流れが作られる。

B生産者がマス広告によって直接、書いてに働きかけ、その製品に対する指名買いを発生させる。その結果、川上からのプルによって取引の流れが作りだされる。

このように、Aでは、買い手になじみのない新基軸製品を、価格を高めにして、流通業者へのマージンを確保し、対面販売型の販売網を用い、販売員による、店頭での説明や推奨によるプロモーションを採用することで、プッシュの流れを作るように4P戦略が一貫している。逆に、Bでは、買い手が使用方法を熟知している製品を、低価格にして、流通業者のマージンを削減し、全国チェーンの販売網を活用し、マス広告によるプロモーションを採用することで、プル型の流れを作っている。

②外的一貫性

適切なマーケティングミックスを構成するためには、外的一貫性の問題を検討しなけれればならない。外的一貫性とは、4Pの諸要素が、それらを取り巻くマーケティング環境と整合性を保つことであり、整合性を判断するには、「消費」「競争」「取引」「組織」の4つの問題を検討しなければならない。

A消費対応、競争対応

企業が採用するマーケティングミックスは、顧客となる消費者、企業にとって魅力があり、購買を促すものでなくてはならない。そして、他社との競争の中で優位性がなければならない。

B取引対応、組織対応

マーケティングミックスは実現可能でなかればならない。それが、「取引」と「組織」である。具体的には、取引関係を結ぶことが可能か?自社の組織で実行可能か?を検討しなければならない。

(EX)プル戦略の場合

(消費)相当数の消費者が製品の特性や使用情報を熟知しているか?また、消費者は、スーパーやコンビニの利用頻度が高いか?マス広告によく反応するか?
(競争)類似の製品をプル型で販売している競合他社が存在しないか?また、していても、自社に優位性があるか?
(取引)取引が可能な全国型の流通チェーンが一定数存在するか?
(組織)4Pを実現するために必要な、資金、人材、設備、ノウハウなどが社内に蓄積されているか?


マーケティングマネジメントのプロセス

①マーケティングマネジメントの狙いは、事業を発展させていく上で不可欠な顧客との関係を、創造し、維持していくことである。

②この狙いを達成するためには、マーケティングミックスを統合し、内的一貫性と外的一貫性を実現することが必要である。

基本的な作業フロー

①マーケティング目標の確認
②ターゲット、ポジショニング、コンセプトの設定
③マーケティングミックスの策定
④消費対応、競争対応、取引対応、組織対応の検討
⑤実行と再点検


2009年8月1日土曜日

流通10~変化する小売業~

百貨店

19世紀後半に欧米で誕生している。百貨店業態の革新は以下の3つ。
①商品を店頭に陳列し、値札通りの価格で販売し、現金取引をするという販売方法を採用したこと。大量生産大量販売が発達した中で、不特定多数の顧客に高回転の販売が可能になり需要と供給を結び付けた。
②商品部門別に商品を仕入れ、販売し、管理するという店舗経営の方法にある。部門性組織は、これまでにない巨大な店舗管理を可能にして、買い回り品における品揃えの広さを追求できるようにし、多くの顧客を引き付けた。
③不特定多数の消費者を魅力的な店舗や広告で吸引したこと。上流志向を持つ大衆層にたいして新たなライフスタイルを提案が行われた。

スーパーマーケットチェーン

スーパーマーケットチェーンは、今では最寄品の小売業における最も支配的な業態になっている。革新は以下の三つ。

①チェーンオペレーション
それは、一つの企業が多数の店舗を経営することであり、店舗の仕入活動や広告活動を本部に集中させることで、規模の経済性を達成できる。最寄品では、一つの店舗での商圏が限れるため、店舗レベルでは限界があるため、多数の店舗を展開し、企業レベルでの規模の経済性を追求するのである。

②セルフサービスという販売方法の導入
人件費などの費用が節約されるため、効率的に販売できた。

③販促的価格設定
これは、顧客を吸引するために、一部の商品について特別に低価格を設定して販売する方法である。消費者にインパクトを与え、店舗への吸引力を高めるこの方法はロスリーダーと言われる。

スーパーマーケットチェーンは、これら三つの革新を取り入れることで、低マージンで高回転の販売を一層進めることになる。それは、チェーンオペレーションとセルフサービスにより、コストダウンが可能になり、それに基づく低価格を販促的な価格設定で強調することで、ますます消費者を集め、その大量販売が、さらなるコストダウンを可能にするのである。

コンビニエンスストア

コンビニエンスストアが長時間営業と年中無休をベースに本格的に発展するのは、第二次世界対戦後のアメリカにおいてである。コンビニにおける革新は以下の通りだ。

①近隣の最寄立地と長時間営業、年中無休による買物の利便性を提供することである。

②POSシステムを用いた店頭の商品管理を徹底的に行うことである。

コンビニエンスストアは、比較的小規模な店舗であるために、限られた売場面積を有効に利用する必要がある。そこで、POSデータを利用して、単品ごとの販売傾向を把握して、死に筋、売れ筋と呼ばれる回転の遅い商品や速い商品の発見に努めることが行われる。すなわち、コンビニエンスストアの限られたシェルフスペースを有効に利用するために、回転の遅い商品をできるだけ早く排除する必要がある。

③多頻度少量の物流システムを導入したこと。
狭い売場面積に、多くの品目を並べるためには、品目ごとに最小限の在庫しか置けないため、多頻度少量の物流システムが必要になる。すなわち、コンビニエンスストアでは、多頻度少量の配送によって在庫の回転率を引き上げ、狭い店舗を一層有効に活用することになる。その際、物流拠点や配送車両を共用させる配送の共同化を行うことや協力的な卸売業者に仕入先を集約化させることで、多頻度少量配送を実現することになる。

通信販売

通信販売は、古くて新しい業態である。古いとは、通信販売という小売業態がすでに19世紀後半にアメリカで確立されたことに基づく。そして、新しいとは、物流や情報処理の技術革新を背景として、この業態が生まれ変わったことを意味している。ただし、通信販売には以下の制約があり、その制約を乗り越える必要がある。

①無店舗であるため、売り手が買い手を買い手が売り手の商品を見つけることが難しくなる。
②無店舗であるため、消費者は実物に触れることができず、実物情報が入手できない。

③商品の受け渡しや代金の支払いを行う場所としての店舗がないという制約かある。

このような制約を乗り越えるために、通信販売業者は、広告やダイレクトメールを大量に出し、顧客の反応を引き出し、顧客リストを作る。広告を通じて好意的イメージができれば、品質リスクを引き下げることができる。さらに、支払いのシステムに関しては、宅配業者やクレジットカード会社などの専門業者によるサービスが利用されることになる。

小売の輪仮説

小売業界の業態革新パターンを説明するために用いられるのが小売の輪仮説である。まず、小売業における新しい業態は、薄利多売(低マージン、高回転)による低価格を訴求する革新として誕生する。ところが、このように低価格で登場した新業態は、時間がたつにつれて、しだいに高マージンの高価格販売に変化することになる。それは、新業態の小売店同士の競争になれば、報復を受けやすい価格競争よりも差別化で利益をあげることが選択されるためである。
このように最初は低価格販売として参入した業態が高価格販売に移行すると、別の新しい業態が、一層の薄利多売による低価格販売を実現して市場に参入する。そして、この新しい業態もやがて高価格販売にシフトするために、また新しい低価格販売の業態が生まれるというのである。このように、業態革新は、輪のように回り続けるというのが小売の輪仮説である。

真空地帯仮説

小売の輪仮説では、低価格で参入するコストリーダー型の業態革新のみが想定されているが、業態革新には、高価格、高サービスによる差別化型の業態革新もあり、両方の業態革新が発生するメカニズムを説明しようとしたのが真空地帯仮説である。
これは、小売業者が低い価格を設定しようとすれば、消費者へのサービス水準を引き下げなければならず、消費者に高いサービスを提供しようとすれば、高価格にならざるを得ないという想定で考える。そして新しい業態による参入は、低価格、低サービスの市場と高価格、高サービスの市場という両極端の真空地帯において発生するというのである。

問題点

①異なる小売市場
両仮説では、新しい業態の生成、発展プロセスを説明するものであるが、これらの新しい業態は、互いに取り扱う商品の種類が異なり、実際にあまり競合しないものも含まれる。

②業態革新の範囲
両仮説において業態革新と呼ばれているものは、現在、業態としての、まとまりを形成しているものである。それは、業態のコンセプトに関わる企業家的な革新という特徴がある。企業家が新しい業態の完結したコンセプトを考察し、店舗への投資を通じて実現した革新であり、その革新は単発的なものと想定されている。他方で業態革新とは、小売流通のプロセス革新として、もっと広い範囲の革新を考えることもできる。

③業態革新のまとまり
両仮説では、なぜ業態ごとに似た特徴を持つのか、またなぜ既存の業態の中からは革新が発生しにくいかを説明できない。


流通システムの変化

パワーとは、特定の相手の行動を統制できる能力のことで、パワー関係は、そのような統制できる関係を意味する。統制とは、自分の意思に沿った特別な行動を他者にさせることである。そして、パワー関係は、依存度、リベート、販促用の物資などのパワー資源、競争制限によって作られる。1950年以降から、メーカーが小売業者に対してパワーを持っていた。典型例として、流通系列化による統制が挙げられる。

流通系列化とは、生産者が卸売業者や小売業者との間にパワー関係を形成して、垂直統合することなく、生産者直営の販売拠点のように販売やサービスにおける協力を確保することである。生産者は、商業を利用することで、ほとんど資本を固定することなく、状況に応じて取引関係を拡大、縮小できる。また、商業者は生産者から独立しており、それは、生産者にとって好ましくない状況が生まれる恐れがある。そこで生産者は商業者を自律的に統制するのである。

しかし、消費者行動の変化、小売業社が大規模化して生産者や卸売業者による販売依存度が大きくなることで、パワー関係が形成される。小売り業者による生産者や卸売業者の統制は、生産者や卸売業者から安く商品を仕入れるために使われるだけではなく、①生産者や卸売業者の緒活動を統制する製販統合あるいは、②生産者の商品開発や生産を統制するPB開発により、生産者と流通業者の間に長期的な関係を築き、消費者のニーズに応えようとする。

①製販統合
商品の生産や物流における一連の作業を企業間で連動させて、一気痛貫の生産、流通システムを形成することであり、それにより、生産や物流の効率化を目指すものである。また、これには、2種類の活動の調整が含まれている。1つは、生産者や卸売業者に迅速で多頻度小量の配送をさせるという物流面での調整である。こうすることで、小売業者は在庫を圧縮でき、費用やリスクを削減しながら効率的な品揃え形成を目指すことになる。2つめは、生産者や卸売業者の生産活動や在庫管理を連動させることである。そのため、小売業者はPOSデータや在庫データを生産者や卸売業者に提供してかれらの供給体制を整備させるのだ。そのデータをもとに、多頻度小量の生産計画の精度を引き上げることになる。

②PB
小売業者が生産者の開発した製品を仕入れて販売するだけじゃく、商品の開発に関与し、生産委託のような形で生産活動を指揮する場合があり、その典型がPBである。目的は、①利益確保のためのPB②品揃え差別化のためのPBがある。

2009年7月31日金曜日

流通9~PB開発の目的~

PB開発の目的

PBとは?

小売業者が生産者の開発した製品を仕入れて販売するだけじゃく、商品の開発に関与し、生産委託のような形で生産活動を指揮する場合があり、その典型がPBである。

なぜ手間をかけてまでPBを扱うのか?

NBによる小売業者間の価格競争の限界が考えられる。そして、そのことは、以下の問題解決行動としてのPB導入を促すことになる。

①利益確保のためのPB
NBの低価格販売では、企業間格差が小さくなるため販売額を伸ばすことは難しい。↓そこで、低価格販売と利益確保の同時達成が可能なPBを導入する。PBはマーケティング費用がかからず、NBの余剰生産能力を利用するため、その分低価格にできる。また、PBは競合する小売業者の取り扱いを排除できるので、低価格で仕入れ販売する効果を排他的に享受できる。

②品揃え差別化のためのPB
品揃えでの店舗差別化は、消費者の特別な店舗選好を形成することにより、店舗間の価格競争による影響を小さくし、対抗な低価格設定抑制する。

PB導入の条件

小売業者が生産者にPBを生産させることは、小売業者が自らの目的達成のために生産者を統制することである。生産者は、NBのシェアが奪われたり、低い仕入れ価格を要求されるため、小売業者と利害が対立している。そこで、パワー関係を統制してPBを生産させるために、もっとも重要なのが、取引依存度に基づくパワー関係である。これは、小売業者が大規模であるほど、生産者が下位の市場地位にあるほど、小売業者のパワーが大きくなる。しかも、たとえ市場地位が高いメーカーでも、PBを拒否する場合、別の生産者がPBを供給することになると自社製品が追いやられる危険性があることから断れないのである。しかし、NBに強いブランドロイヤルティが形成されている場合は、PBの販売を優先すれば、消費者にとって魅力のない店になる。
すなわち、ブランドロイヤルティが弱く、生産者間の市場シェアをめぐる競争や市場参入が激しい場合には、小売業者に有利なパワー関係が形成され、生産者はPBを生産供給する可能性が高くなる。


製販同盟に基づく商品開発

最近では製販統合をベースとする共同開発やPBが新しい展開として注目されている。
製販統合によって、小売販売データの蓄積から商品開発に活かすなど、効率性を高めることができる。したがって、このような商品開発のスタイルは、共同的なプロセスであること、小売り販売のデータベースに基づくものであるという二つの点が従来と異なる点である。つまり、安定的な企業間関係はPB開発を促すのだ。

2009年7月30日木曜日

流通8~小売業者による製販統合~

小売り業者による統制

小売業社が大規模化して生産者や卸売業者による販売依存度が大きくなることで、パワー関係が形成される。小売り業者による生産者や卸売業者の統制は、生産者や卸売業者から安く商品を仕入れるために使われるだけではなく、生産者や卸売業者の緒活動を統制する製販統合あるいは、生産者の商品開発や生産を統制するPB開発が典型である。

製販統合
商品の生産や物流における一連の作業を企業間で連動させて、一気痛貫の生産、流通システムを形成することであり、それにより、生産や物流の効率化を目指すものである。また、これには、2種類の活動の調整が含まれている。

(A)生産者や卸売業者に迅速で多頻度小量の配送をさせるという物流面での調整である。こうすることで、小売業者は在庫を圧縮でき、費用やリスクを削減しながら効率的な品揃え形成を目指すことになる。

(B)生産者や卸売業者の生産活動や在庫管理を連動させることである。そのため、小売業者はPOSデータや在庫データを生産者や卸売業者に提供してかれらの供給体制を整備させるのだ。そのデータをもとに、多頻度小量の生産計画の精度を引き上げることになる。


では、なぜ商業の市場メカニズムに委ねられず、小売り業者による統制という形をとらなければならないのか?

小売り業者と生産者、卸売業者が、それぞれの段階で水平的な競争において、個別に意志決定する限り流通全体の費用からみた最適な在庫形成が達成できないという理由が考えられる。



なぜ多頻度小量配送が要求されるか?

環境変化によって、小売業者への迅速かつ多頻度小量配送が、商品流通をもっとも効率的にするようになったからである。このような市場メカニズムで多頻度小量配送が取り入れる現象を説明する上で有効なモデルが、在庫形成における、延期-投機モデルである。


延期-投機モデルとは?

延期とは、迅速で多頻度小量の注文処理や配送によって、小売業者の在庫形成の意志決定をできるだけ遅くする(つまり延期する)ことである。反対に、小売業者が在庫形成の意志決定を早くすることを在庫形成の投機という。

例えば、ある小売業者が今週の金曜日から三日間の特売のために、商品を注文するとしよう。そして、これまで、仕入れ先の業者が注文を処理して発送するのに、一週間かかっていたのを物流システムの改善で二日間に短縮できたとすれば、小売業者の発注は一週間前の金曜日から今週の水曜日にまで遅くすることができる。これらが在庫形成における延期化である。

このように、他頻度少量配送は、小売業者の在庫を削減する。ただし、在庫形成を延期化すれば、小売業者の在庫費用を削減する反面、別の費用が上昇することになる。例えば、延期化すれば、そのための物流、情報システムに費用がかかる。これらの費用は、供給業者が負担することになる。そのため、ただ単に他頻度少量配送による延期化をすれば良いというわけではなく、小売業者、と供給業者の負担する合計費用が最も少なくなるように考慮しなければならない。


延期化の流れ

近年、最適な配送のリードタイム、頻度、ロットサイズは延期の方向に移動している。それは需要不確実化技術革新によって迅速で、他頻度少量の配送をもたらしていると予想される。(P163図8-4参照)


なぜ、小売業者は製販統合を目指すのか?

小売業者主導の延期型システム

小売業者主導で延期化されるのは、以下の要因にある。

(A)費用に関する問題生産者や卸売業者にとっては、他頻度少量配送によって上昇する物流情報処理量の費用が十分に償えない懸念が生じるため、在庫形成の延期化に消極的になる可能性があるため、小売業者主導で行う。

(B)同盟関係への発展。生産者、卸売り業者における水平的な競争や小売業者との取引における情報の不確実性を残したままでは、在庫形成の延期化が不徹底になりやすいからである。本来の水平的競争に任せておけば、生産者は、なるべく大量におおきなロットサイズで受注するように努力するだろう。このことは、他頻度少量の流通システムを2つの理由で損なわれる。

1、実需を反映しない一時的な押し込み販売により在庫費用が増加する。
2、流通量が大きな振幅を持つことにより、小ロットに平準化できない。


すなわち、延期型の流通システムでは、顧客の実需に基づいた注文を過不足なく捕捉し、それに基づく適時適量の流通を行うことが条件となる。そのため、供給業者の販売活動を抑制する必要があり、小売業者は、特定の供給業者との間に特別な協力関係を築き、販売の競争を抑制することで、延期的な流通システムによる効率化を達成しようとするのである。

2009年7月29日水曜日

流通7~生産者による流通系列化~

流通系列化とは?

生産者が卸売業者や小売業者との間にパワー関係を形成して、垂直統合することなく、生産者直営の販売拠点のように販売やサービスにおける協力を確保することである。生産者は、商業を利用することで、ほとんど資本を固定することなく、状況に応じて取引関係を拡大、縮小できる。
また、商業者は生産者から独立しており、それは、生産者にとって好ましくない状況が生まれる恐れがある。そこで生産者は商業者を自律的に統制するのである。

では、商業者の自由な行動は生産者にとってどのような問題をもたらすのか??

①商業者の品揃え形成活動
生産者は、他生産者と競争しているので、自社の製品を優先的に扱うことを臨むが、商業者と生産者は独立した企業であるが故に、商業者の品揃え形成は生産者の意図とは無関係に行われる。
                       ↓
そこで生産者は、商業者の自由な品揃えを統制することで、商業者の仕入額に占める自社商品比率を高めようと考えることになる。ただ、そのことは、商業者の存立基盤を損なう恐れがあるので、自社製品で消費者を吸引できるように、製品差別化の努力をしなければならない。


②商業者の販促・サービス活動

小売業者は、消費者への販促サービス活動を通じて生産者による製品差別化への影響力を持っている。それ故、小売業者が自主的に販促を行うことは、生産者の意図する製品差別化を侵害する危険性がある。
                ↓
そこで、生産者は、その危険性を取り除き、さらに積極的に小売業者の販促活動を生産者のマーケティング活動に連動させて、製品差別化の強化を狙うようになる。
ただ、販促は、小売業者にとって、コストがかかるため、見返りを提供することでパワー関係を統制しなければならない。

また、小売業者の販促活動を統制するためには、生産者は、2種類のフリーライドに対応しなければならない。

(A)小売業者間での情報サービス提供についてのフリーライド
消費者が販促サービスを行う店舗で情報を得て、販促サービスを行わず、その分低価格で提供している店舗で購入してしまうことである。

(B)パワー資源を提供する場合に生じる生産者間でのフリーライド
小売店舗で、自社の販促ツールやノウハウを使って、他者商品を販売されてしまうことである。そこで、生産者は、競合商品の取り扱いを制限する必要がある。

③商業者の競争行為
商業者の競争を制限することは、商業者が利益を上げやすいという意味においてパワー資源となる。そこで、生産者は、商業者の競争行為を監視し、競争制限に違反する商業者がいれば、ただちに商品の提供をストップするなど対処が必要である。


流通系列化の現実的問題

現在では、家電製品や化粧品産業で、系列店制度が以前より弱くなっている。その要因は以下の2つ考えられる。

①消費者行動の変化
販促サービス活動の統制にとって重要なのは、消費者が小売業の提供する情報サービスに依存するかどうかが重要である。ところが、消費者に商品知識が蓄積されるようになると、消費者は小売業者のもたらす情報に依存しなくなるのである。また消費者は、このような状況では、系列店より低価格な量販店を消費者は選択するのである。

②量販店販売比率の増加
大規模で大量販売する量販店は、生産者から見れば販売依存度が高く、量販店から見れば仕入依存度が低いため、パワー関係において生産者は不利である。
また、量販店は、生産者の統制を受け入れにくい理由がある。

(A)品揃えを形成して消費者を吸引しているため、品揃え形成の統制が難しい
(B)消費者に特定商品の販促を期待できない。
(C)競争行為を制限されることは、低価格戦略と矛盾する。


まとめ

上記のことから、生産者は、流通系列化にに基づいて中小小売業者を中心とする販売、サービス体制を維持するのか、量販店の持つ販売力を利用するのかという重大なディレンマに陥っている。

2009年7月24日金曜日

流通6~商業におけるパワー関係~

パワー関係とは?

パワーとは、特定の相手の行動を統制できる能力のことで、パワー関係は、そのような統制できる関係を意味する。統制とは、自分の意思に沿った特別な行動を他者にさせることである。

このような統制の最も典型的なものとして、流通系列化がある。

流通系列化とは?

商業者の仕入活動や販売活動などでの特別な作業をさせることに使い、それによって、あたかも垂直統合された販売拠点のように管理しているのである。また、大規模小売業者が仕入先に対してパワーを持つようになり、生産者者や卸売業者に特別な貢献をさせて、多頻度少量の配送システムを形成させたり、PBを生産させたりしている。これは、小売業者による統制である。


それでは、どのようにパワーが形成されるのか??

①依存関係によるパワー形成

パワー関係の有無に重要な影響を与えるのは、企業の規模ではなく、取引における依存関係である。依存関係は、企業Aが企業Bに商品を販売している場合、AのBへの依存度(販売依存度)、BのAへの依存度(仕入依存度)の2つによって決まる。

そして、この依存度は、
(A)相手との取引の重要度が大きいほど(B)その取引相手以外に代替的な取引相手が少ないほど大きくなる。

他にも、生産者がブランド戦略に基づいて消費者に強いブランドロイヤルティを形成した場合、生産者は小売業者に対してパワー関係を形成できる。他方で、小売業者が消費者にとって魅力的な立地などで差別化している場合は、生産者はその小売業者に依存しやすいと言える。

要するに、依存関係に関して言えば、取引における比重と商品や店舗の差別化によってパワー関係が規定されるといえる。

しかし、依存関係によるパワー形成には不都合な点がある。1つは、依存関係は産業構造に規定されるため、十分なパワー関係を形成できない可能性がある。2つめは、取引相手の違いによるパワー関係にばらつきが生じてしまう。そこでパワー資源活用される。


②パワー資源によるパワー形成

相手に経済的メリットがあるパワー資源を提供して、その見返りとして相手の行動を引き出すのである。

(A)リベート
生産者が商業者に商品取り扱い量や店舗内シェアを高めてもらいたいときに支出する数量リベートや、生産者の設定した販売促進計画に協力させるための販促リベートなど多様な種類がある。そしてリベートには以下のメリットがある。

第1に、リベートは特定の取引相手だけを差別的に優遇できる。第2に、リベートは価格よりも柔軟に運用しやすい。

逆にデメリットもある。第1に、リベートによって取引相手の市場による価格競争を促進してしまう恐れがある。第2に、リベートを出す基準が複雑で分かりにくいことや事後的に調整することがデータ処理の妨げになる。


(B)物資や情報によるパワー資源
物資や情報など価値のある資源を提供することでパワー関係を形成するのである。例えば、商品のパンフレットやPOP広告、陳列ケースなどである。


(C)競争制限によるパワー資源
販売する地域を制限テリトリー制度や販売する価格を統制する再販売価格維持制度などのように、商業者間での競争を制限することである。また、生産者が小売業者の競争を制限することは、競争から守られる小売業者の利益となるために、パワー資源となるのである。

2009年7月15日水曜日

流通5~商業における信頼関係~

商業における取引関係において信頼関係は極めて重要な位置を占める。ここで言う信頼関係とは2つある。

(1)情報の信頼性・・・交渉などの情報交換において、取引相手に情報を開示する必要がある。                        
(2)行為の信頼性・・・交渉で決められた契約を守ったり、相手の期待する行為をすることである。

それでは、信頼関係を構築することに、どのようなメリットがあるのだろうか?

(1)取引費用の節約が生じることである。

(2)取引が安定的に継続し、互いに情報をオープンにすれば、売り手と買い手が互いに取引相手の知識を蓄えやすくなり、商品開発や生産の効率化が進む。

(3)信頼関係が形成され、取引が安定すると、取引相手に合わせた設備や技術の投資が進みやすくなる。


信頼関係を構築するメリットが多いにもかかわらず、信頼関係が形成できない原因はどこにあるのだろうか?

それには以下の3つの障壁が予想される。

(1)一方的なコミットメントの危険性
→信頼関係が売り手と買い手のどちらか一方による行動や態度では形成できないのである。相手企業が信頼関係の形成に積極的か消極的のいずれの場合でも、自企業は、消極的な方が有利となる。このような理由から信頼関係が形成されにくいと考えられる。

(2)市場取引への執着
→買い手が不安定な市場取引のメリットを過大に評価する傾向がある。つまり、短期的な利益を優先して長期的な信頼関係に繋がりにくいと考えられる。

(3)信頼関係による成果の不確実性
→信頼関係による成果が必ずしも確実ではないということである。また、成果が得られたとしても、パワー関係によって成果が一方に偏り、配分が少ない場合も、信頼関係が形成されないと考えることができる。


それでは、いかにして信頼関係を構築すればよいのか?

信頼関係の形成において重要となるのは、双方の信頼関係において意志を明確にすることであり、それが揺ぎ無いという確信を与えることである。

また、経営者同士や担当者同士の個人的な信頼関係を形成することも同様に重要である。そのことにより、個人的な信頼関係を失うことに関するペナルティーを設けることに繋がり、一方的コミットメントの危険性が回避される。

まとめ

信頼関係に関しては、継続的な関係をもたらすことで競争に通じた柔軟な商業の構造的変化を阻む原因の1つになると考えられるが、様々なメリットもあり、取引においては信頼関係を含んだ考え方が必要になる。近年盛んな流通系列化や、PB(プライベートブランド)開発においては、特に信頼関係が重要となるのである。

流通4~現代の流通構造~

情報化の影響

近年のIT革命は、商品流通に大きな影響を与えている。

(1)物流システムにおける情報化(生産者と商業者の間での情報技術の導入)
(2)消費者への商品販売(Eコマース、電子商取引)

物流情報システム

物流センターを構築し、物流を集約的に管理しながら、多頻度少量配送をするため自動化、情報化を進めている。(オンライン受発注システム(EOS)、POSシステムなど)そして、以下の効率化をもたらす。

(1)注文情報の交換における効率化
(2)物流作業における効率化
(3)商品流通の短縮化

つまり、商業者が空間的懸隔を効率的に埋め、在庫の補充を容易にするため、少ない在庫で時間的な懸隔を埋めることができる。その結果、商業者による流通サービス処理能力を引き上げるので、流通段階は減ることが予想される。


Eコマース

減少する費用

(消費者費用)
買いものに出掛ける移動費用
商品を持ち帰る輸送費用
買いものの時間的制約による費用
複数商品を買い揃える費用
情報収集費用(単純な)

増加する費用

(消費者費用)
複雑な情報の収集費用
待ち時間による費用

(流通サービス費用)
情報システム費用
広告、販促費用
物流費用

最寄品・・購買頻度は高いが、商品が届くまで時間がかかるのが問題で、向いていない。
買回品、専門品・・商品を探索したりする費用が節約できるが、購買頻度が低いことが問題である。


まとめ

インターネット販売による商品流通が、従来の店舗販売に比べて効率的かどうか、インターネット販売が大きなシェアを取るかどうかは、これらの消費者費用と流通サービス費用の違いによる影響を受ける。

2009年7月14日火曜日

流通3~卸売り商業の構造~

流通の多段階化とは?

生産者ー卸売り業者ー小売業者ー消費者へと取引が繰り返されるわけだが、取引が行われる市場のことを段階と言い、その段階が多くなることをいう。

流通の多段階化を生み出す要因とは?

また、商業者が多段階化することで、生産と消費の空間的懸隔を埋める役割を果たす。そして、多段階が形成されるなら、以下のことが予想される。

(1)消費者は近くの店舗を利用する傾向が強い。
(2)生産者の物流能力が低いために、商業による物流作業への依存が高い。
(3)商業者の物流処理能力が低いために、多段階の商業者間での分業が必要になる。

また、ほとんどの商品は生産される時期と消費される時期が異なってくる。このような生産と消費の時期が異なる時、商業者が商品を保管して、時間的懸隔を埋めるのである。

また、流通の多段階化は、品揃えの懸隔を埋める。品揃えの懸隔とは、生産段階では、少数の種類で大量に生産する傾向があるが、消費者のもとでは、多数の種類で少数の製品の集合が必要になる。品揃えを形成するために、商品の組み換えニーズが高まるほど、小売業者の手に負えず、分業するなど、多段階化するのである。

つまり、生産者と商業者が流通サービスを提供し、空間的懸隔、時間的懸隔、品揃えの懸隔を埋めてくれるほど、消費者のすべき作業量が減ることを意味している。


日本の多段階流通構造

日本の流通が欧米に比べて、多段階化する原因は、2つ考えられる。

(1)消費者行動の違い(徒歩、自転車を多用するなど、消費者費用を避ける)
(2)商業者の処理能力不足(日本の商業者は小規模なものが多いため)

しかし、近年、流通が短縮化されている傾向がある。それは、流通の中抜き現象と呼ばれている。以下の影響が考えられる。

(1)モータリゼーションの発達
(2)加工、冷凍食品の普及により、保存が可能に。
(3)スーパー、コンビニなどの、全国的に店舗を展開している企業の増加。

まとめ

生産者ー消費者に商品が届くまでに、一定のコストがかかり、そのコストを誰が負うのかによって流通の段階は変わってくる。例えば、消費者がコストを避けたがる場合は、商業者が多段階化し、コストを負う。(特に最寄品)逆に、消費者がコストを負う場合は、商業者の負担するコストが減る。(ブランド価値の高い商品など専門品)

流通2~小売商業の構造~

効率的な商品流通のために、どれだけの商業者が必要になるのか?

商品の種類による店舗数、店舗密度の違い

(例)加工食品は店舗数が多いが登山用品店は少ない。

国や地域によって店舗数、密度が違う

(例)日本はアメリカに比べて店舗数が多く、小規模である。


小売店舗数はどのように決まるのか??

消費者費用、生産者サービス費用、流通サービス費用を合計した流通費用がもっとも低くなるように決まる。

小売店舗数が多くなるほど生産者、商業者の流通サービス費用は増加する。それは以下の要因が働くためである。


1、店舗ごとに商品を仕分ける作業が複雑化するため費用が高くなる。

2、小売店舗に配送するための物流費用が高くなる。
              ↓
小売店舗数が少なく、大規模店舗が多い方が効率的で消費者も探索費用が節約されるかもしれない。しかし、消費者にとって店舗が減ることは不便である。いずれにせよ、消費者は、商品価格と消費者費用がもっとも低くなるような店舗を選ぶ。

つまり、商品の需給が一定なら、消費者の小売店舗選択には、以下の3つが影響する。

1、店舗数が増えるほど生産者、商業者が商品を仕分け配送する流通費用が高くなる。

2、店舗数が多くなるほど、消費者が店舗に出掛けて商品を持ち帰る消費者費用が低くなる。

3、店舗数が少なくなり、大規模化するほど、まとめ買い、探索する消費者費用は低くなる。

(P43図参照)


商品によって異なる消費者行動

最寄品・・消費者が商品の探索や購買について、できるだけ少ない努力で手に入れようとする種類。
探索努力→少ない、購買努力→少ない
(例)食料品、日用雑貨品、医薬品

買回品・・消費者が購買の努力を惜しまず、商品の価格、品質、デザインを慎重に比較する種類。
探索努力→多い、購買努力→多い
(例)服、電化製品、

専門品・・消費者が既にブランド選好を持っており、店頭でのブランド比較をしないような種類。
探索努力→少ない、購買努力→多い
(例)ブランド品

これらの類型は、店頭での商品の探索努力と店舗への往復にかける購買努力への平均的な傾向によって分類される。

このように考えると、消費者の選択する店舗、店舗数は以下の傾向を持つ。

1、最寄品は、多数の近隣にある小売店舗で販売されやすい。ただし、大規模店舗の販売シェアが大きくなるにつれて、店舗数は減少する。

2、買回品は、最寄品より少ない数の小売店舗で販売される。そして、地域における品揃えを形成するために、大規模店舗か、都市の中心部に密集して立地する店舗で販売される。

3、専門品は、最寄品、買回品より少ない店舗で販売される。また、ブランド選好のため、品揃えの深さは必要なく、商品の供給量が限られるため、同業種の店舗が数多く密集することは、買回り品ほど多くない。


なぜ日本の小売店密度が高いのか??

日本の小売が小規模多様性を持っている原因は、以下のように考えられる。

1、最寄品の買いものは、徒歩や自転車ででかけることが多い。

2、欧米に比べて生鮮食品が多く、まとめ買いしにくいため、こまめに買いものする。

                  ↓
消費者行動の変化により、小規模多数な店舗は解消されつつある。
例えば、冷凍食品などの消費量増加、自動車の発達、単身者は、利便性を重視し、コンビニを重宝。

2009年7月13日月曜日

流通1~商業とは何か~

中間業者を省くことは効率的か?

答えは否。なぜなら、中間業者を省くことによって、中間業者が本来負っていたコストが、製造業者あるいは、消費者にかかることになるからである。つまり、製造業者ー卸売業者ー小売業者ー消費者の流れの中で、それぞれが、役割を分担しているのである。

それでは、商業者(卸売り業者、小売業者)の役割とは何だろうか?

1、空間的効用

商業者が存在しなければ、商品を生産者から直接購入しなければならないため、不便である。つまり、商業者は、生産者と消費者の空間的な距離を埋める役割を果たすのである。

2、時間的効用

商業者が存在することで、製造業者は、製造に集中でき、商業者は販売に集中できるといった分業が成立するため、消費者は、店舗の営業時間中であれば、いつでも商品を入手できるといった時間的な効用を作り出したと言えるだろう。

3、所有権の移転というリスクを引き受ける

商業者じゃなくても、空間的、時間的効用は作り出せる。例えば、物流業者など。しかし、商業者は物流業者と違い、所有権を引き受け、リスクを負っているという違いがある。商業者が、なぜリスクを負うかと言えば、商品を仕入れることで品揃えを形成できるからである。

品揃えがもたらす経済的メリットとは?

品揃えを形成することで、商品流通を効率良くすることができる。そのメカニズムは以下の2つである。

1、取引数節約

品揃えの広さによってもたらされ、消費者が多様な商品を買い揃える場合に、取引の数を節約できる。
例えば、3人の消費者がおり、3種類の野菜を購入しなければならない場合、単純に3×3=9回の接触が必要である。しかし、1人の商業者が介在すると、生産者が商業者と3回取引し、消費者が商業者と3回取引する。つまり、3+3=6回の取引で済むのである。

2、情報縮約の効果

上記と同じ理屈で、商業者が品揃えを形成することで、消費者が欲しい商品を探索するコストが、節約されるのである。


それでは、いかにして流通費用が節約されるのだろうか?

まず、前提として、消費者に渡るまでの流通費用は以下の3つである。

1、消費者費用

消費者が負担する費用であり、商品を買う際の、金銭的な費用、時間や労力、心理的な負担を含んだ費用である。

2、商業者サービス費用

商業者がこなしている様々な流通サービスに対する費用である。

3、生産者サービス費用

商品を流通させるために生産者が負う費用である。そして、生産者の販売価格とは、2、3の費用を合わせた価格である。

商業者の品揃え形成による流通費用の節約とは、商業者が介在した場合に、1、2、3の総合計が、生産者と消費者が直接取引する場合に比べて低くなっていることにより表される。

それでは、具体的に、それぞれの費用節約について説明する。

1、消費者費用の節約

a、取引や探索における移動費用の節約

b、取引や探索の費用節約

2、生産者流通サービス費用の節約

商業者が介在することにより、生産者の交渉、取引費用が節約される。もし、商業者がいなければ、生産者は、各消費者との取引を行わなければならない。

3、流通サービス費用の節約

商業者が介在することにより、合計費用が少なくなる。消費者の立場に立てば、商業者から商品を購入する方が、生産者から直接購入するよりも、商品の店頭価格と、消費者費用を合わせた費用が少なくて済むのである。(数式は、p25)

まとめ

商業者とは、多くの製造業者から商品を買い集め、品揃えの深さや広さを形成することで、商品流通の効率性を高めるという貢献をしている。
つまり、商業者というのは、1、品揃えの広さや深さを形成し、2、生産者から消費者への商品流通を媒介する業者であり、多数の生産者の商品を取り揃えるには、生産者から独立している必要がある。

はじめに。

これからマーケティングを勉強していくにあたって、ノート替わりに書き溜めていきたいと思います。基礎的な理論体系をまとめ、日々変化していく事例をその枠組みで説明できることを目的としています。