2009年8月7日金曜日

マーケティング資源の配分(PPM分析)

企業は、今日の効率性と明日の成長性をバランスさせながら複数の製品(事業)を組み合わせ、そこから最大かつ、安定した収益を得ようとする。これを製品ポートフォリオと呼ぶ。

何が事業の収益性を決めるのか?

事業の資源配分について考えることの重要性を明らかにした古典的研究プロジェクトに、PIMS(Profit Impact Of Market Strategies)プロジェクトがある。文字通り、市場戦略が収益にどのような影響を与えるかを明らかにすることを狙いとした。プロジェクトが始まった背景は、複数の製品や事業を持つ企業が増えてきたこと、製品や事業のライフサイクルのスピードが速くなってきた、多くの産業が成長期から成熟期へ移行し、総花的な資源配分では、企業の存続や成長が危ぶまれるようになったことが挙げられる。
PIMSプロジェクトの成果として、大きなものは、相対市場シェアが高くなると、投資収益率とキャッシュフローのいずれも増加するというものだった。


なぜ市場シェアが大きくなると収益性が高まるのか?

市場シェアと利益率の間に正の関係が見られるのは、市場シェアの増大によって様々な間接的メカニズムが働き製品サービスの単位あたりコストが低下するからだと考えられる。そのメカニズムとは以下の2点である。

①規模の経済性

事業の規模が拡大するにつれて、製品サービスの単位当たり生産コストが低下することをいう。もちろん、この関係は永遠に続くわけではなく、どこかで臨界点に達するが、生産拠点や活動単位を分割することで、乗り越えられる問題である。また、規模の経済性が起こる要因は以下の通りである。

A設備の大規模化。B間接費負担の軽減。C調達コストの低下である。

②経験効果

経験を積んだ集団のほうが、その仕事の経験が少ない集団よりも、効率的な仕事を行うことができるという効果である。経験効果は、累積生産量を代理指標とすることで数値化できる。一般的に、累積生産量が2倍になるごとに、単位当たりコストが10~30%低下するという関係が見られると言われる。経験効果を生み出す主要な要因は以下の通り。

A習熟を通じた能率の向上。B生産工程や生産設備の改善。C投入要素の変更。D製品の設計変更。
また、規模の経済と経験効果には重要な相違点がある。生産コストの低下が、規模の経済では、生産量という関数に対して、経験効果では、累積生産量の関数となる点である。つまり、前者は、スタティック(静学的)なものであり、後者は、時間の流れで生じるダイナミックな現象である。


規模と経験効果を活かしたマネジメント

①市場シェアの拡大がもたらす好循環

→業界最大シェア→業界最大の累積生産量→規模、経験効果→業界最低の平均コスト→業界最低の価格レベル→

②市場シェアを拡大する時期の限定

→規模、経験効果はある程度までいくと効果は乏しくなるため、市場シェアの拡大によるコスト削減効果が低減し始めたとき、市場シェア拡大を至上命題とするマーケティング目標を変更する時である。このように、規模や経験効果が働く事業では、市場シェアの拡大を至上命題とする時期と、シェアよりも利益を追求する時期に分けて考えることが必要である。

③経験の蓄積を進行させるための組織デザイン

→自社のスタッフが一定の作業を反復して経験するように組織や作業工程のデザインを工夫することによって、経験効果をより享受できる。

④革新的な製品、製法の戦略的な活用

→低シェア企業が、高シェア企業の優位性を切り崩していくポイントが明確になる。つまり、既存の製品、製法のもとで蓄積された経験を無効にするような状況を作り出すことである。その鍵となるのが、製品や製法のイノベーションである。


製品ポートフォリオ管理

製品(事業)間の資源配分を検討する際に使われるのが、製品(事業)ポートフォリオ管理(PPM)である。製品間の資源配分を行うには、1つ1つの製品について、投資を続けるべきか、撤退すべきか、あるいは、投資を続けるなら、どのくらいの水準の投資を行うのかを決めなければならない。PPMは、この意思決定を統一的な枠組みのもとで行うための手法を提供してくれるのである。


PPMの考え方

上記で記述したように、市場シェアと利益率には相関関係があり、市場シェアの大小は、事業のコスト面に重大な影響を及ぼす。このように、自社に事業の市場シェアと市場の成長率を把握することで、その事業にどれだけの資金が必要で、どれだけの資金がその事業から得られるのかということについて、おおよそのめどを得ることができる。
縦軸に、市場の成長率、横軸に、市場シェアのマトリックスを作ることで、製品ポートフォリオを捉えるための枠組みが出来上がる。そこで出来る4つのセルを以下で説明する。


①金のなる木(事業利益/資金供給/シェア維持orシェア刈り取り)

第3象限に位置する事業群は、市場シェアが高く、市場成長率は低い。したがって、利益率は高い。また、この状況では、成長率が低く、多額の投資が必要ないため、資金流入が多く、流出が少ないために、余剰資金が生じる。おそらく、資金が不足している他の事業へ、余った資金を供給することができるはずである。

②問題児(成長or撤退/次世代のスターor資源移転)

第1象限に位置する十行軍は、金のなる木と対照的で、市場シェアが低いため資金流入量が少ないが、市場成長率が高いため、資金流出量は多い。したがって、資金バランスの悪い事業と言える。その後は、撤退して赤字の累積を防ぐか、多額の投資を行い市場シェアを拡大し、バランスを取るのか選択しなければならない。

③スター(市場シェア/成長(次世代の資金供給)/シェア獲得)

①と②の中間にある事業群は、スター、負け犬と呼ばれ、第4象限に位置するのはスターである。スターは、市場成長率が高く、多額の投資が必要となる半面、市場シェアが高く利益率も良いので実入りも多く、活気のある事業である。企業の将来の発展の可能性を担う期待の星である。

④負け犬(撤退/余剰資金の移転/シェア刈り取り)

第2象限に位置する事業は負け犬と呼ばれ、敗退を余儀なくされた事業である。利益率は低く、資金流入は少なく、将来大きく成長する可能性も低いので、新たな投資も必要ない、可もなく不可もない事業である。

PPMの活用(HOW)

①全社的な資源配分を行う際の枠組みとなる。

→PPMを用いることで、統一的な視点で、製品間の資金の流れをデザインできるようになる。例えば、資金が余る「金のなる木」から、資金が慢性的に不足する「問題児」あるいは、「スター」に資金が移転される。

②事業ごとの目標を明らかにする。

→例えば、金のなる木では、いっそうのシェア拡大は望まれないだろう(市場シェア維持戦略)。また、ある程度はシェアを犠牲にして、利益創出が求められる場合もある。

以上のように、企業は、PPMを導入することで、単一の事業では解決できない問題を複数の事業の組み合わせと、その資源配分によって解決できるのである。


PPM導入理由(Why)

①成長と資金管理のバランスを取る。

→GEのマーケティング近視眼の回避を行った結果、マーケティング遠視眼に陥り、資金需要が高まり、資金不足に陥った。

②長期と短期の経営目標を調和させる。

→PPMは、適正な資金管理をしつつ成長をはかるための手法である。金のなる木で収益を確保する一方、未来を支える成長候補として、スターや問題児に投資することで、長期の課題と短期の課題を調和させることができる。

③変化に対応する。

→PPMを導入することで、変化の激しい市場環境に対する企業組織の対応能力が高まる。

④現場と本社の対話を促す。

PPMは、現場の判断と本社の投資判断との食い違いを浮き彫りにし、その解決に向けた健全な対話を促すものである。

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