取引とは何か?
企業が活動を行う際には、他の組織との取引が必要となる。ここでいう取引とは、経済活動を営む独立した主体間の境界を越えた財の移転や、事業活動の相互調整のために行われる探索や調整、検証のための活動を言う。
自社でまかなうか、他社に委ねるか?
企業は、マーケティングとかかわる様々な業務について、自社内あるいは、自社グループ内でまかなうのか、それとも他社に委ねるのかを選択することができる。
前者を自社内への統合、後者を市場での取引と呼ぶことにする。
取引関係の広がり(垂直統合と水平的連鎖構造)
統合と取引という2つの方法の選択が何をよりどころとして行われるのかという問題についての検討を進めていく。以下では、マーケティングにおける選択問題の対象領域の広がりを2つに分けて確認する。
①垂直的連鎖構造(調達→組み立て→物流→販売→代金回収)
企業は、必要な人材、資源をインプットし、その結果産出された物財、サービスを産業の次に引き継いでいかなければならない。この局面がアウトプットである。このインプットとアウトプットは、最終的な消費者に到着するまで何度も繰り返される。この連鎖の広がりを垂直的連鎖構造と呼ぶ。なお、この垂直的な統合、取引の連鎖構造は、バリューチェーンあるいは、サプライチェーンと呼ぶ。それは、物財やサービスに付加価値を付け加え、その有用性を高めていくプロセスだと考えることができる。
②水平的連鎖構造(例えば、自動車⇔ガソリン⇔修理工場)
製品サービスの有用性を作り出すことに貢献しているのは、垂直的連鎖構造だけではない。買い手にとっての製品サービスの有用性は、製品サービスがどのような水平的連鎖構造の中に置かれているのかによっても異なってくる。製品サービスの有用性あるいは性能は、組み合わせ可能な製品サービスとの関係の中で決まってくる。こうした製品サービスの有用性を規定する水平的な製品サービスの連鎖は、バリューネットワークと呼ばれることがある。企業は、補完的な関係にある製品サービスの供給を自社でまかなう場合もあれば(統合)、他社に委ねる場合もある。
では、どのような要因が、統合か取引かの選択を規定しているのだろうか?
垂直あるいは、水平方向に統合を進めるには、様々なトレードオフがある。
①生産コストの条件
社外から調達した方が割安なのか、自社で生産した方が割安なのかという問題がある。統合するための財務力があろうとも、より低いコストで調達できるなら、調達した方が良さそうである。
②取引コストの条件
必要なサービスを社外から調達しようとすると、生産コスト以外にも、取引相手の探索や条件の交渉、監視に関わるコストの問題が発生する。また、取引には、機会があれば相手を出し抜いてでも利益を得ようする行動(機会主義的な行動)を考慮に入れなければならない。
③資源蓄積の問題
統合を進めることで、部品や原材料を内製化することで、自社製品の設計、生産に関わる重要な技術やノウハウを獲得できる場合がある。垂直的連鎖の沿った統合を行うことで、川上あるいは、川下の技術ノウハウを取得することができる。
だが、その一方で、経営資源の蓄積は、事業リスクの増大と背中合わせであることを見落としてはいけない。 ①莫大な資金が必要であること。②時間がかかる。③操業度が低下した際にリスクが高くなる。
上記をまとめると取引と統合のトレードオフ関係は以下の通り。
取引⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔統合
有利 ①資源取得の機動性 不利
有利 ②資源稼動の柔軟性 不利
不利 ③取引コスト 有利
不利 ④資源蓄積の水準 有利
有利 ⑤事業展開のスピード 不利
2つの原理のハイブリッド
現実に、調達や販売を行う際には、組織への統合と、この市場取引との中間に位置する第3の方法がある。この擬似組織的な取引の方法は、組織への統合と取引との中間的な性格を持つことから、中間組織と呼ばれる。
中間組織を活用する
中間組織は、組織への統合と市場での取引のの両者のメリットを併せ持ったものとなる。中間組織では、特定の取引相手との長期的な関係を前提としているため、信頼関係を形成しやすく、機会主義的な行動が発生しにくい。したがって、純粋な市場取引を行う場合より、取引コストは小さく、経営資源の囲い込みをはかることにもつながりやすい。一方で、中間組織は制度的には独立した企業間での取引であるため、完全に組織内で統合してしまう場合と比べるとはるかに柔軟性があり、リスクも低くなる。このように、中間組織では、取引関係は安定したものとなるが、競争の圧力も持続しており、取引を他社に奪われる可能性が残っていることから、イノベーションに対するインセンティブとなっている。
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