2009年8月8日土曜日

事業の定義(マーケティング近視眼)

事業の定義は、狭すぎても、広すぎてもいけない。事業の定義を狭く捉えていたために、事業の機会をみすみす逃してしまうという失敗が起こることを、「マーケティング近視眼」と言う。一方、事業の定義を広く捉え過ぎると、事業の拡大志向に歯止めがかからなくなることを「マーケティング遠視眼」という。

マーケティング近視眼

事業を狭く定義し過ぎること。HBSのセオドアレビット教授が名付け親であり、4分の1インチドリルが100万個売れた時に、消費者は、4分の1インチドリルを買いたかったのではなく、4分の1インチの穴が欲しかったのである。

(EX)アメリカの鉄道会社は、「鉄道事業」と定義していたため、飛行機や自動車が発達すると衰退した。もし、鉄道会社が、「輸送会社」と定義して、長距離バスやレンタカー事業を展開していれば市場は拡大していたと考えられる。


事業の定義のポイント

①顧客が本当に求めているものは何か。
(EX)アート引越しセンターは、顧客が本当に求めているものは何かを考え抜くことで、引越し業のイノベーションを起こした。アートは、これまでは、運送業であったが、引越ししようとしている消費者が欲しいのは、トラックでも運送サービスでもなく、「生活の移転」であると気づいた時、引越しビジネスが誕生した。これにより、荷物の運送だけでなく、下見、見積もり、掃除、片付けなどの付加的なサービスをするようになり、荷物を輸送することは、サービスの一部でしかない。

②そもそも何をすべきなのか。
事業の定義にあたっては、何をすべきなのかについてよく考えることが重要である。技術の変化や消費者の要求の変化、さらに競合する製品サービスの変化といった様々な変化によって「何をすべきか」が変化していくことに、企業は絶えず気をつけておかなければならない。

マーケティング遠近眼の罠

マーケティング近視眼を避けることをあまりにも強調し過ぎると、逆にマーケティング遠視眼に陥ることになりかねない点は注意が必要である。

(EX)1960年代のGEは、マーケティング近視眼を避けようとして社内の改革を行った。電線事業部→建設資材事業部、メーター事業部→計測機器事業部、制御機器事業部→オートメーション機器事業部に変更した。しかし、それと引き換えに、広い事業の定義に応えるためには、投資が必要になり、収益を得るまでには時間がかかる。各事業部が自分の事業を賄っていくのは難しくなり、全社的に資金面での余裕が乏しくなる。これが遠視眼の弊害である。それは、PPMの導入である程度解決できるが、事業の定義の重要性は低下するわけではない。同じ製品サービスにかかわる同一の業務に対する資源配分も事業の定義次第で異なってくるからである。

PPMとの関係

どのような事業と定義するかで、PPMから導き出される指針が異なってくる。まず、事業の対象を広くとるのか、狭くとるのかという問題がある。加えて、事業を通じて、「誰に(どのような顧客に)」「何を(どのような機能を)」「いかに(どのような技術で)」提供しようと考えることが重要である。

(EX)スカンジナビア航空(SAS)
SASの顧客満足プログラムは、エアラインサービスに新しい事業の設計図を持ち込むものだった。SASは、まず自社の顧客を「ビジネスマン」と定義し、その満足度の向上を最重要課題とした。そして、提供する機能として、ビジネスマンの満足度を高める鍵は、「時間」であると考え、「定時に出発して定時に目的地に到着する」ことや、「時間を節約する」ことを大事にしていると考えた。そして、ビジネスマンの飛行機への乗り降りを優先的にするために、直行便のスケジュールを増やしたり、機内に荷物は持ち込めるように通路を広げるなど機内設計を変更したりした。
つまり、
誰に→ビジネスマン
何を→時間を節約する。
どのように→機内に荷物を持ち込める。直行便を増やす。

また事業の定義を行うことと連動して、基軸となる経営資源の判別が行われる。この基軸となる経営資源をコアコンピタンスと呼ぶ。

自らの拠って立つ経営資源を明らかにする。

①成長の鍵は何か。
②自社の基軸となる資源は何か。


(EX)富士ゼロックス
富士ゼロは、米ゼロが開発した大型コピー機を大手ユーザーに販売していた。米ゼロは、これに加え、レンタル制度などのコピーサービスを販売しており、これは、顧客が求めているのは、機械ではなく、それが果たす機能だと考えた。対して、富士ゼロは、大型に加え、卓上型の小型コピー機を新たに開発しようとした。
つまり、富士ゼロAは、技術と機能をそのままに顧客の拡大を、米ゼロBは、顧客をそのままに、技術と機能の拡大をはかるという成長路線の違いを表している。

このように、新しい事業の定義の採択が企業の基軸となる経営資源(コアコンピタンス)の判別と連動しているということである。顧客、機能、技術の3つの軸に沿って事業の定義を考え直していくで、将来に向けての成長路線を明らかにすると同時に、自ら拠って立つ経営資源は何かが浮き彫りになっていくのである。また、新しい事業の定義を導入することで、対象市場が異なってくるという問題がある。

事業の定義が異なると、①顧客のタイプやボリューム、②競合する企業、③流通チャネルに求められる用件が異なってくる。

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