2009年8月15日土曜日

ブランドマネジメント

ブランドとは何か?

ブランドとは、製品サービスを特徴づけるために付与される名前やマークの総称である。そして、価値プレミアム効果やロイヤルティー効果といったブランドの効果は、ブランドそのものに内在しているわけではない。ブランドそのものは、単なる名前やマークでしかないが、重要なのは、マーケティング活動の中にブランドを組み込むことで、人々の認識や経験との間に新たな関係を作り出すことである。ブランドの価値の源泉は、この間接的な効果にある。

ブランドがもたらす効果

優れたブランドは、事業の収益性や成長性を高める効果がある。その効果はマーケティングのいくつかの局面で起こる。ブランドの中心的役割は、製品サービスと顧客との絆を強めることにあり、選択代案が存在するなかで、買い手が自社製品を選択する理由を構成することである。これは、価格プレミアム効果とロイヤルティ効果となって表れる。

①価格プレミアム効果
他社の製品サービスよりも高価格で自社の製品サービスを販売できるという効果である。
②ロイヤルティ効果
顧客が自社製品サービスを繰り返し購買するようになるという効果である。

加えて、優れたブランドは企業に事業拡張の機会をもたらす。ブランド拡張やライセンス供与が可能となるのである。

③ブランド拡張
新たな製品サービスを開発したり販売したりする際に、自社の既存の製品サービスに用いてきたブランドを使用することである。
④ライセンス供与
自社のブランドの使用を他社に許可し、その対価としてブランド使用料を得ることである。
上記をまとめると、次のようになる。

優れたブランドの構築→①②③④→収益性や成長性の拡大となる。


信頼と識別の印

ブランドのマネジメントは、ブランドの効果や、その資産としての価値を認識することから始まるがそれだけでは、不十分である。ブランドの効果が生じるメカニズム、すなわち、ブランドの機能を明確にしておくことが欠かせない。ブランドの機能は以下の2つである。

①視覚上の手がかりをマーケティングに組み込むことで生まれる機能
②人々の記憶をつなぎとめておく手がかりをマーケティングに組み込むことで生まれる機能

◎保証機能
ブランドには、保証機能がある。製品サービスに付けられたブランドには、単なるマークと済ますわけにはいかない重みがあることがある。企業がブランドを付与することは、自らの製品サービスの品質や性能に対する自身と責任を表明することなのである。

◎識別機能
識別機能とは、ブランドの付与がその対象となる製品サービス群を1つのものとして特定化する役割を果たしているのである。このように、ブランドは、製品サービスを識別するための印となる。企業にとって、自社の製品サービスを他社のものと差別化する必要に迫られた時、識別機能が必要になる。

このように、マーケティングにおけるブランドの価値は、名前やマークとしてのブランドそれ自体の内在しているわけではない。上述した保証と識別の2つの機能は、マーケティング活動とそれに対する買い手の認識とをブランドが縫合することによって生まれる。

◎想起機能
ブランドの想起機能とは、ブランドが買い手に対して、ある種の知識や感情、あるいは、イメージなどを想起させる機能をいう。想起機能は、ブランドの育成を長期的なマーケティングの課題とする。

①ブランド認知
ブランドの想起機能は、マーケティングコミュニケーションを補完する。人々は、製品サービスを購買する際に、過去の経験に基づく記憶を意思決定のための情報として活用する。ブランド認知には、再認と呼ばれる局面がある。例えば、ナイキのスウィッシュを見て、このマークを知っていることである。さらに、ブランド認知には、ブランド再生という局面がある。商品カテゴリーの提示と連動して特定のブランドが想起されることをブランド再生という。例えば、アイスクリーム→ハーゲンダッツである。

②ブランド連想
また、ブランド再生とは逆の方向で、ブランドの提示と連動して、知識や感情、イメージが想起されることをブランド連想という。例えば、SONY→ウォークマンといった連想である。

これらのブランド連想が、マーケティングマネジメントのプログラムと連動した時、どのような効果が生じるのか?ブランド連想が顧客の高いロイヤルティー効果や価格プレミアムを形成するメカニズムは以下の3つである。

(A)情報処理負荷の削減

ブランドには、買い手が購買時に行う情報処理活動を簡便化するという働きがある。
(B)自己表現の媒体化
自己表現は自らを満足させる行為であると同時に、他者に対するコミュニケーションでもある。すなわち、最先端をいく生活者であろうとする時には、自分自身だけでなく、社会全体もしくは帰属する集団の構成員に対しても最先端に見えなければならない。
(C)有用性の構成
ブランド連想によって、製品サービスの有用性が高まる。ブランドを付加することで、製品に備わっていた有用性がクローズアップされ、より評価される。

まとめ

ブランドの機能と効果
①保証
製品サービスの品質と性能に対する自信と責任の表明
②識別
競合する製品サービスの異質性の強調
③想起
→(ブランド再生)
・想起集合への参入
→(ブランド連想)
・情報処理負荷の削減
・自己実現の媒体化
・有用性の構成

①②③→価格プレミアム効果、ロイヤルティー効果をもたらす。


ブランドの活用と育成

ブランドの活用と育成には、次のようなマネジメントが欠かせない。
①様々な機能のどれをどのタイミングで求めるか
②名前やマークを付与するだけでは限定的な効果しか生まれない。
③ブランドは一朝一夕には出来上がらない。
④ブランドとマーケティングは補完的な関係にある。


プロダクトか?ブランドか?

ブランドのマネジメントにあたっては、マーケティングの基軸を、①製品サービスにおくのか、②ブランドにおくのかを選択しなければならない。

②のブランドを基軸とし、中長期的にブランドの価値を高めていくことが目標となる。それを推進しようとするのが、ブランド価値経営である。それは、ブランドを育てることを企業経営の最重要課題とする。

2009年8月14日金曜日

関係性マーケティング

関係性パラダイム(マーケティング)とは?

企業と外部との関係性に注目しており、その基本枠組みとして関係性の結合対象と、②関係性そのものの内容とを規定するところから始まる。したがって、関係性マーケティングは、まず、企業と顧客との関係性、取引先との関係性、資本家、投資家との関係性、社会、大衆との関係性といった様々な次元から論じることができる。これらの結合対象は、ステークホルダーと言われているものである。しかし、関係性マーケティングを特徴づけているのは、関係性の内容であり、その中心概念は、インタラクションである。

交換パラダイムから関係性パラダイムへのシフト

交換パラダイムとは、売り手と買い手の双方にとって価値のある交換を実現することがマーケティングの中心的な課題である。つまり、相手のメリットになる提案を行いながら、自社の立場を強めていく道を探った方が、はるかに大きな果実が手に入る。事業を成長させるためには、売り手と買い手のWIN-WIN関係を確立しなければならない。そして、近年、交換パラダイムに対して、新たに注目され始めているのが、関係性パラダイムである。交換パラダイムによって一度関係が出来上がると、交換パラダイムとは違った取引の世界が出現する。関係性を重視するこのマーケティングパラダイムは、リレーションシップマーケティングと呼ばれることもある。このパラダイムシフトが起こった背景として、

①市場の成熟化

需要が大きく伸びている間では、新規顧客を獲得することも難しくないが、産業が成熟期に入ると状況が変わる。市場が成熟化すると、さらに成長するために、競合他社とのパイの奪い合いになり、マーケティングコストが上昇する。そして、買い替え需要が中心になるなど、需要の中身が変化する。このように、成熟期に入ると、新規顧客を獲得するハードルが高くなり、市場シェアの高い企業にとっては、既存顧客のボリュームの方が大きくなるため、既存顧客との関係性を重視した方が賢明である。

②アフターマーケットの拡大

アフターマーケットとは、製品サービスの販売後、それに付随して生じる修理や部品交換などの需要を対象として形成される市場のことである。アフターマーケットは、製品が高度化、複雑化するとともに拡大する傾向がある。そして、企業がアフターマーケットにアプローチする際にも、顧客との関係を継続させることが重要な課題となる。

③情報技術の発展
近年関係性パラダイムが注目されるようになったのは、顧客データベースを構築し、その分析を通じて顧客関係のマネジメントを高度化していこうというアイディアが現実味を帯びてきたからである。情報技術を顧客関係のマネジメントに活用しようとするアイディアをCRMと呼んでいる。このように、情報技術の発展によって現実的な手法の可能性が広がったことも、顧客との関係のマネジメントに対する関心を高める要因となっている。

顧客との長期的な関係を形成することのメリット

関係性パラダイムは、顧客との関係を創造し維持することをマーケティングの中心課題として位置づける。そのメリットは以下の通りである。
①取引コストやリスクの低下

企業が顧客と長期的な関係を築くことができれば、長期的な信頼関係をもとに、新製品開発や合理化のために思い切った投資ができるようになる。

②販売機会の拡大
顧客のニーズやその変化を長期的にとらえていくことで、クロスセリングやアップセリングを行うことが可能となる。クロスセリングとは、自社製品の顧客に対して、さらに関連する他の製品サービスを販売していくことであり、アップセリングとは、再購買時に、よりグレードの高い製品サービスへアップグレードすることである。

③顧客獲得コストの低減
新顧客獲得には、既存顧客を維持するのに必要なコストの数倍になると言われている。


顧客関係の識別と選択

顧客関係は、新規顧客に比べコストを抑えることができるため、企業にとっては、資産とみなすことができる。では、こうした自社の資産として育成しようとする時、どのようなマネジメントを行うべきだろうか?
①顧客関係の識別と選択
顧客関係のマネジメントに関しては、まず、顧客関係の識別と選択を行わなければならない。企業としてどの顧客との関係に投資し、育成していくのかを見極めるのである。自社の顧客の中から特に重要な優良顧客を識別し、選択的な対応を行っていくことになる。その前提となる枠組みは、市場細分化によって与えられる。細分化によって、企業は、潜在的な顧客の中から顕在化させるべき顧客グループを識別することができる。また、顧客関係の識別と選択においては、顧客生涯価値も識別しなければならない。

②顧客関係の維持と修復
顧客関係を維持するためには、以下の3つの課題に取り組まなければならない。

(A)スイッチング障壁の形成
スイッチングコストを高めることによって顧客の離脱を防ぐというものである。一方、顧客満足の実現とは、自社の製品サービスに対する顧客の満足度を高め、その購買を継続することである。
スイッチング障壁は例えば、①会員制②長期間割引③ポイントプログラム④移動コスト⑤経験⑥信頼関係などがある。そして、スイッチング障壁を活用するためには、次のことを考慮しなければならない。①他社に先行する。②新規顧客獲得に及ぼす負の影響を見逃さない。

(B)顧客満足

顧客満足は、事前の期待と実際に体験したサービスへの評価の差によって規定される。事前の期待を大きく上回る体験をすれば、とても満足するが、期待以下なら不満を覚えるだろう。また、顧客満足度調査は、自社の製品サービスに対する顧客満足度の実態を把握し、顧客からどの程度支持を得ているかを診断する調査である。満足度調査を読み解くには、不満より満足の方にバイアスがかかるため、相対評価をもとにした分析が望ましい。

◎満足度-インパクト分析
製品サービスごとに、満足度(パフォーマンス)と重要度(インパクト)という2つの観点から質問を行い、マトリックスで、次のように集計される。
①重要度も高く、満足度も高い場合→→→企業にとっては望ましい成果が出ている。
②重要度は低いが満足度は高い場合→→改善すべきだが他の需要な属性が犠牲になれば問題。
③重要度も低く、満足度も低い場合→→→満足度の低さは問題だが、顧客は重視していない。
④重要度は高いが満足度が低い場合。→→早急に改善すべき属性。

◎顧客関係の修復
良好な関係を築いても、なんらかの不具合や不手際で顧客が不満を抱くことは避けられない。その場合は、迅速に対応すべきである。顧客も、不満が解消されるならスイッチング障壁をわざわざ乗り越えて他社製品に乗り換えるメリットは少ないからである。したがって、顧客の苦情は前向きに捉え、顧客からの贈り物であるとみなすべきである。ただし、ほとんどの顧客は、不満を抱いても苦情を言わずに乗り換えるため、顧客に苦情を言わせる工夫が必要である。具体的には、①迅速な対応で問題の原因について説明する。②権限を従業員に委任する。③従業員に顧客満足の価値を得心してもらう。などである。

③顧客関係を高める組織
顧客との関係の識別や選択、あるいは、その維持や修復のための取り組みを継続していく必要がある。こうした一連の取り組みを実践していくには逆ピラミッド型組織が適していると言われる。一般的な企業の階層的な組織構造は頂点としたピラミッド型組織であるが、逆ピラミッドは、最上位に顧客が位置し、その下に顧客と直接接する現場の従業員が位置するという形の図式で階層的な組織構造を描いたものである。

2009年8月12日水曜日

産業(製品)のライフサイクル

製品ライフサイクル

①生成期(導入期)・・・・市場に導入された新製品サービスが、小さな需要しか獲得できない時期。
売上は、小規模で、資金の流出が多く利益はマイナス、顧客は、革新的採用者(イノベータ―)、競合他社はほぼ無し。目標は、技術と便宜の新結合。

②成長期・・・・需要が急速に拡大する時期。
売上は、拡大し、利益は増大するが、資金の流出も多い。顧客は、初期採用者(アーリーアダプター)、競合他社は増加し、目標は、売上の拡大/市場シェアの拡大

③成熟期・・・・成長が鈍化し、需要がピークに達する時期。
売上はピークに達する。資金の流入が多く、流出が少ないため、高利益となる。顧客は、追随型採用者(フォロワー)/買い替え需要であり、競合他社が減少し比較的安定する。目標は利益の確保/市場シェアの維持である。

④衰退期・・・・需要が減少する時期。
売上は減少し、利益は低下し、顧客も減少する。競合他社も減少し、目標は、事業の再定義を行い延命することで利益を得るか、事業の縮小、撤退である。

こうした産業の推移は、「製品ライフサイクル」と呼ばれる。横軸に時間、縦軸に製品サービスの売上額を取ると、製品ライフサイクルはS字曲線で表すことができる。

①~②生成期から成長期へ

技術と用途が結びつくことで、新しい製品サービスが誕生する。産業が生成してから、成長期へと飛躍していくためには、以下の要件が必要である。

①競争者間で共通する製品技術企画(デファクトスタンダード)が確立する。
デファクトスタンダードが確立すれば、関連産業が、(A)安心して投資できるようになる。(B)多様なニーズに応えられる製品群が揃い、(C)需要側(リスク)のリスクが低減する。(D)補完産業の整備が進む。(E)互いに不安を打ち消し合う好循環が生まれる。

②生活シーンに定着した安定した需要が確保される。

顧客のタイプ分類

①革新的採用者(自らが抱えた問題が解決されることを最優先する)(生成期)
革新的採用者の多くは、解決しなければならない問題を処理するために、まだ誰も購入したことのない製品サービスを自らの判断で探索、評価し、採用する人々である。

②初期採用者(問題解決と使い勝手の良さを考慮する)(成長期)
革新的採用者に続いて、比較的早い時期に新しい製品サービスを採用する人々である。初期採用者は、単に問題が解決されるかどうかではなく、問題がどのように解決されるか、すなわち、その使い勝手の良さという要素を評価して製品サービスを選択する。したがって、彼らに訴求するためには、タンに基本性能を高めるだけでは不十分で、使い勝手も含めたより広い視野から製品サービスを検討し直していくことが欠かせない。

③追随型採用者(手段と目的を一体のものとして受け入れる)(成熟期)
さらに、初期採用者に遅れて、製品サービスを購入する人々である。他者が使用しているのを見て購入するため、問題解決に対する切実さは少ない。要するに、これらの人々は、手段が与えられて、初めて、解決すべき問題を発見するのである。しかし、顧客としてのボリューム層が一番大きい。

ライフサイクル別マーケティング戦略

①生成期における革新的採用者に対するマーケティング

コミュニケーションの時間を十分に取ると同時に、様々な疑問や要求に応える必要がある。そのためには、製品サービスの特徴や使い方を熟知し、経験を積んだ自社の販売員やサービス担当者を使って人的なコミュニケーションを取るのが一般的な方法である。

②成長期への移行における初期採用者に対するマーケティング

産業として大きく成長していくには、さらに顧客層を拡大していくことが欠かせない。その対象は、初期採用者である。前述のように初期採用者は、製品の使いやすさも十四するため、基本的性能を超えた拡張的な便宜を備えた製品サービスを「拡張製品」と呼ぶ。拡張製品とは、初期採用者の期待に応えるための製品サービスのセットであり、コアとなる製品サービス+その使用や購買を容易にする様々な付加価値やサービスによって構成される。


③成長期のマーケティング

業界標準が成立し、拡張製品が登場すると、成長期に向けた製品の離陸が始まる。同時に、産業の枠組みに関する暗黙の合意が、競争関係、取引関係、消費者の間でできあがる。
生成期には、プッシュ戦略を採用されるが、成長期には、プル戦略が有効になる。それは、①製品の性能が明確になると値ごろ感がつかみやすくなり、価格の重要性が増す。②不特定多数の買い手に向けた販売が必要になるため、流通チャネルが広がる。③伝えられるべき情報が絞られていれば、マス広告が効果的であり、マス広告が採用される。④チャネルの拡大と単純化されたプロモーションがされるようになると、それと連動して、店頭ですぐにその違いが分かる製品の差別化の重要性が増す。

④成熟期のマーケティング

成熟期には、需要の伸びが鈍化するとともに購買行動のルーティン化が進み、売上を大きく伸ばすことはできないが、生成期から成長期に行った多額の投資を回収する時期であり、マーケティング目標を売上から利益へと転換する。具体的には、①市場細分化の重要性増大②競争地位別のマーケティング③メーカーから流通へのパワーシフトといった変化に直面する

⑤衰退期のマーケティング

成長期が続く産業もあるが、やがて多くの産業が衰退期を迎えることになる。そして、規模を縮小するか、撤退するかを選択することになる。だが、衰退期の産業でも、事業の定義を変えることで、成長する可能性がある。①顧客を変える。②機能を変える。③技術を変える。この3つを見直すことが必要である。

2009年8月11日火曜日

取引関係

取引とは何か?

企業が活動を行う際には、他の組織との取引が必要となる。ここでいう取引とは、経済活動を営む独立した主体間の境界を越えた財の移転や、事業活動の相互調整のために行われる探索や調整、検証のための活動を言う。

自社でまかなうか、他社に委ねるか?

企業は、マーケティングとかかわる様々な業務について、自社内あるいは、自社グループ内でまかなうのか、それとも他社に委ねるのかを選択することができる。
前者を自社内への統合、後者を市場での取引と呼ぶことにする。

取引関係の広がり(垂直統合と水平的連鎖構造)

統合と取引という2つの方法の選択が何をよりどころとして行われるのかという問題についての検討を進めていく。以下では、マーケティングにおける選択問題の対象領域の広がりを2つに分けて確認する。

①垂直的連鎖構造(調達→組み立て→物流→販売→代金回収)

企業は、必要な人材、資源をインプットし、その結果産出された物財、サービスを産業の次に引き継いでいかなければならない。この局面がアウトプットである。このインプットとアウトプットは、最終的な消費者に到着するまで何度も繰り返される。この連鎖の広がりを垂直的連鎖構造と呼ぶ。なお、この垂直的な統合、取引の連鎖構造は、バリューチェーンあるいは、サプライチェーンと呼ぶ。それは、物財やサービスに付加価値を付け加え、その有用性を高めていくプロセスだと考えることができる。

②水平的連鎖構造(例えば、自動車⇔ガソリン⇔修理工場)

製品サービスの有用性を作り出すことに貢献しているのは、垂直的連鎖構造だけではない。買い手にとっての製品サービスの有用性は、製品サービスがどのような水平的連鎖構造の中に置かれているのかによっても異なってくる。製品サービスの有用性あるいは性能は、組み合わせ可能な製品サービスとの関係の中で決まってくる。こうした製品サービスの有用性を規定する水平的な製品サービスの連鎖は、バリューネットワークと呼ばれることがある。企業は、補完的な関係にある製品サービスの供給を自社でまかなう場合もあれば(統合)、他社に委ねる場合もある。


では、どのような要因が、統合か取引かの選択を規定しているのだろうか?

垂直あるいは、水平方向に統合を進めるには、様々なトレードオフがある。

①生産コストの条件
社外から調達した方が割安なのか、自社で生産した方が割安なのかという問題がある。統合するための財務力があろうとも、より低いコストで調達できるなら、調達した方が良さそうである。

②取引コストの条件
必要なサービスを社外から調達しようとすると、生産コスト以外にも、取引相手の探索や条件の交渉、監視に関わるコストの問題が発生する。また、取引には、機会があれば相手を出し抜いてでも利益を得ようする行動(機会主義的な行動)を考慮に入れなければならない。

③資源蓄積の問題
統合を進めることで、部品や原材料を内製化することで、自社製品の設計、生産に関わる重要な技術やノウハウを獲得できる場合がある。垂直的連鎖の沿った統合を行うことで、川上あるいは、川下の技術ノウハウを取得することができる。

だが、その一方で、経営資源の蓄積は、事業リスクの増大と背中合わせであることを見落としてはいけない。 ①莫大な資金が必要であること。②時間がかかる。③操業度が低下した際にリスクが高くなる。


上記をまとめると取引と統合のトレードオフ関係は以下の通り。

取引⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔統合

有利   ①資源取得の機動性     不利
有利   ②資源稼動の柔軟性     不利
不利   ③取引コスト          有利
不利   ④資源蓄積の水準      有利
有利   ⑤事業展開のスピード     不利

2つの原理のハイブリッド

現実に、調達や販売を行う際には、組織への統合と、この市場取引との中間に位置する第3の方法がある。この擬似組織的な取引の方法は、組織への統合と取引との中間的な性格を持つことから、中間組織と呼ばれる。


中間組織を活用する

中間組織は、組織への統合と市場での取引のの両者のメリットを併せ持ったものとなる。中間組織では、特定の取引相手との長期的な関係を前提としているため、信頼関係を形成しやすく、機会主義的な行動が発生しにくい。したがって、純粋な市場取引を行う場合より、取引コストは小さく、経営資源の囲い込みをはかることにもつながりやすい。一方で、中間組織は制度的には独立した企業間での取引であるため、完全に組織内で統合してしまう場合と比べるとはるかに柔軟性があり、リスクも低くなる。このように、中間組織では、取引関係は安定したものとなるが、競争の圧力も持続しており、取引を他社に奪われる可能性が残っていることから、イノベーションに対するインセンティブとなっている。

競争戦略

競争対応の枠組み

製品ポートフォリオ管理によって各事業部への基本的投資行動が決定されたのを受け、各SBU(戦略的事業単位)ごとに事業戦略が策定されるが、この事業別の競争対応の戦略が、4Pを中核とする各機能戦略を方向づけるのである。

マイケルポーターの3つの基本戦略

ポーターによると企業の競争戦略は、他者に対する競争優位のタイプ(コスト優位か差別化か)と戦略ターゲットの幅(広いか狭いか)に基づき以下の3つ(4つ)に分類される。そして、それは、競争優位をいかに確立するかという企業の根本的な競争対応を規定するものである。

①コストリーダーシップ戦略
コストという判断基準が明確であり、低コストが目的となる。コスト削減の対象となるのは、生産、調達、流通、開発、情報コストなどである。そのための戦略変数は、規模の経済性、操業度、チャネルの共同行動、垂直統合、参入時期、技術投資など全ての企業活動が考えられる。例えば、OEM、PBが多く見られるのは、操業度の向上による生産コストの優位の獲得を目的とした戦略展開である。

②差別化戦略
消費者が欲する何らかの次元において、自社を他社から差別化する戦略である。差別化の対象としては、製品、販売チャネル、広告販促、アフターサービス体制などその他多くの企業活動がある。消費者が、差別化されていると感じるのは、他社製品に比べ、消費者が支払うコストが低いか、消費者が得るパフォーマンスが高い時である。コストは価格が安いだけでなく、維持、取り換え、時間などの消費者コストも含む。また、パフォーマンスを上げるためには、客観的に優劣を判断できる思考型属性と、主観的な判断に伴う、感情型属性を考慮することが重要である。

③集中戦略(コスト集中、差別化集中)
集中戦略は、ターゲットを業界平均より狭く限定し、そこに集中する戦略であり。競争優位のタイプによってコスト集中と差別化集中に分けられる。どちらにせよ、狭いターゲットに集中することで、そのターゲットに最適な戦略を展開することが可能になる。ターゲットを広く取る競合は、集中戦略を取る特定ターゲットに最適な手はなかなか打てない。つまり、広ターゲット企業は、特定ターゲットに対して最適な戦略を打ちづらいのである。例えば、トヨタは、フルライン戦略を展開しているため、高級スポーツカー市場では、集中しているポルシェに勝てない。ターゲットの限定の仕方は、買い手と製品という2つの方向が考えられる。

製品ライフサイクル(PLC)別戦略

PLCは、製品のライフサイクルの展開に伴うマーケティングミックス構築の動態的な方向づけを行うものである。

①導入期
新製品の知名と、トライアルが最大目的となるので、広告販促に力を置きつつ、ベーシックな製品で入り込めるチャネルから徐々に展開していく。

②成長期
競争が激しく、シェアの最大化が目的となるため、価格を下げ、チャネルを広げていくことが中心となる。

③成熟期
成長率が鈍化し、売上拡大が難しくなり、利益最大化が目的となるため、多様なブランドモデルの展開を中心に広告を増やして、ブランドロイヤルティを高めていく。

④衰退期
支出削減とブランド収穫が目的なので、コスト削減に向けてのあらゆる戦略を4P全般にわたって行う。

具体的には http://maki-jun77.blogspot.com/2009/08/2.htmlに投稿済み。


競争地位別戦略

競争地位別戦略は、市場シェア順位という競争地位別の4P戦略を方向づけるものである。ある程度、競争者が安定している必要があるため、競争地位別戦略は、特に、PLCにおける成熟期に妥当な戦略である。

①リーダー(最大シェア、利潤、名声、イメージ/全方位/フルカバレージ)
市場トップ企業のリーダーは、現在の最大シェア、最大利潤、名声を維持することが目標となるため、基本方針は、市場内のすべてに対応する全方位型となり、ターゲットも全ての顧客を対象とするフルカバレッジとなる。この方針は、4P戦略を方向づける。製品は、フルライン、チャネルは開放型、プロモーションも高水準、価格も、名声の維持も考慮して中~高価格に設定される。リーダの戦略の定石には以下のものがある。
(A)周辺需要拡大
業界全体の需要を底上げすることで、新規拡大分がシェアに応じて分配されるため、結果的にリーダーのメリットが一番大きい。
(B)非価格競争
リーダーが特に遵守すべき戦略である。理由は、価格競争は、最大シェアのリーダーに利潤縮小のダメージが一番大きく、確立したブランドエクイティ、イメージの低下をもたらすからである。ただ、価格引き下げに他社が追随してこない場合(コスト競争力で勝てないと判断される)は、リーダーと言えど、価格競争が可能となる。
(C)同質化対応
簡単に言えば、他社製品をイミテーションすることである。リーダー企業は、他社と同じことをしても、販売力、ブランド力、技術生産力の優位性により、下位企業に勝つことができる。

②チャレンジャー(市場シェア/差別化/セミフルカバレージ)
2番手企業のチャレンジャーは、リーダーのシェアに追いつくことが目標となるため、4Pを含め、全てにおいて、リーダーとの差別化によってシェア拡大を計っていくことになる。ただ、経営資源でリーダーに劣るため、セミフルカバレージから始めざるを得ない。チャレンジャーの定石は、徹底した差別化であるが、リーダーが同質化戦略を取ってくるため、同質化できない差別化を目指すことになる。例えば、チャネルを維持する必要のあるNECや松下にとって、デルやソニーの戦略に対してそれとは同質化できない。他には、規格戦略に関しては、技術規格が異なっているため、同質化されにくい。

③フォロワー(生存利潤/模倣/経済性セグメント)
3番手以下の企業はのフォロワーは、トップ企業の座を奪うほどの経営資源は持ち合わせてないため、まずは、着実に利潤をあげていくことが目標となる。そのためには、リーダーが成功した戦略を模倣し、製品開発などのコストを極力抑えることが重要である。ターゲットは中心市場では勝てないため、 中~低価格志向の経済性セグメントを中心に狙い、それに合わせた4Pを展開することになる。
定石は、リーダーはじめ成功企業の模倣を低価格で実現することにある。ただ、圧倒的なコスト競争力のある上位企業に対して低価格で挑むことは難しく、上位企業が力を入れていないセグメントに追い込まれることになる。

④ニッチャー(利潤、名声、イメージ/集中/特定市場セグメント)
シェアではなく、利潤と名声、イメージを目標として集中戦略をとる。すなわち、ターゲットは特定市場セグメントに限定し、そこに到達するためにチャネル、プロモーションは特殊になる。製品、価格は、高めを狙い、高収益を目指す。定石は、集中による特定市場でのミニリーダ戦略である。消費財では、高級服、高級車、高級オーディオなど、高品質、高価格市場へのニッチャー戦略がよく見られる。例えば、アイスクリームにおけるPBが増えたことで、NBが価格を下げざるを得なかったのに対して、ハーゲンダッツなどのプレミアムアイスクリームにとって、影響は少ない。

以上であるが、PLCなどの通時的な流れのなかで、また、競争地位などの共時的な構造のなかで、いかに競争優位を確立するかというグランドデザインをもてるかどうかにかかっている。

プロセスとしての競争

企業間の競争を分析するには、「プロセスとしての競争」という考え方が必要となる。プロセスとしての競争は、構造としての競争と補完的な関係にある競争の作動である。かつて、オーストリア学派が強調したように、競争には、新たな知識や情報を生み出すという働きがある。プロセスとしての競争は、この知識創造のプロセスとしての競争をとらえたものである。

プロセスとしての競争は、事業の定義を研ぎ澄ますプロセスとなる。企業は、他社との競争を通じて、独自の経営資源や能力を新たに発見していく。そして、この発見を取り込んでいくことで、事業の定義は更に磨きあげられたり、組み替えられたりする。

プロセスとしての競争は、産業の枠組みをダイナミックに組み替えていくプロセスとなる。このとき、企業は、臨機応変なマーケティングマネジメントの切り替えと、マーケティングマネジメントに通じた産業の枠組みの再構築という、2つの次元にまたがる問題に対応していかなければならない。

プロセスとしての競争は、事業の強みと弱みが反転するプロセスとなる。これまで、企業が自社の優位性を確保するために築き上げてきた経営資源が、新しい状況への適応を妨げる要因となってしまうことがある。このような企業の戦略的行動が引き起こすジレンマを「戦略的ジレンマ」と呼ぶ。

(Ex)ビール産業
キリンビールのラガービールが当初60%を超える市場シェアを取っていた。しかし、ラガービールの成功は、キリンの競争優位の源泉であったと同時に、移動障壁の源泉でもあった。2位以下の企業は、ラガー以外の製法で、ジレンマを突こうとした。1980年代の後半に、アサヒスーパードライを発売され、その結果、ラガービールは細分化されたカテゴリーの1つに成り下がり、アサヒがトップになった。10年後には、今度は、アサヒが同様の戦略的ジレンマに陥ることになる。サントリーが開発し、キリンが参入した発泡酒市場がビール市場のシェアを食い始めた。本格的なビールを訴えていたアサヒは参入が遅れた。かつて、キリンが直面したのと同じジレンマにアサヒが直面することになったのである。

2009年8月10日月曜日

競争構造の枠組み

競争の場の枠組み

産業の枠組みは、以下のような複数の視点が重ね合わせることによって与えられる。

①需要の同一性
産業とは、同一の需要をめぐる企業間の競争の場である。もっとも、この需要の交差弾力性の高さに依拠した定義だけでは、産業という場が無限に広がってしまうため、以下の視点を重ね合わせることで少し狭く定義しなければならなくなる。

②技術の共通性 (=産業)
まず考えられるのは、製品サービスを製造したり、運営したりするのに必要な、技術の共通性によって産業を捉えるというアプローチである。

③事業構造の類似性 (=戦略グループ)
企業が誰を直接のライバルと考えるかという問題である。企業が直接のライバルとして認識するのは、同じ産業のなかでも、特によく似たマーケティングの手法や活動を展開している企業だろう。

以上のように、需要の交差弾力性の高さに加えて、技術の共通性、事業構造の類似性に注目することで、企業間の競争の場となる中範囲の領域を切り出すことができる。また、技術の共通性に基づいたユニットを産業、事業構造の類似性に基づいたユニットを戦略グループと呼ぶ。


競争が規定する産業の収益性

マーケティングにかかわる戦略立案を行ううえで、産業という枠組みが重要なのは、産業によって各企業の投資収益率が大きく異なるからである。
事業の収益性は、①自社の属する産業の魅力度、②その産業の中での自社の事業の競争的地位という2つの基本要因によって規定される。

産業という枠組みの中での企業の競争行動は、以下のような3つの基本要因の影響を受ける。

①競争者の数と規模の分布
産業に属している企業の数が少なければ、価格水準をコントロールすることが容易になる。さらに、企業の数だけでなく、産業内で企業の規模がどのように分布しているのかによっても競争状態は異なってくる。企業の数が多くても上位企業にシェアが集中している場合、競争は比較的緩やかなものになる。

②新規参入の容易さ
産業の競争状態は、新規参入が容易であるかどうかによっても異なってくる。参入障壁とは、新たな参入を妨げる要因である。

(A)初期投資の大きさ
規模の経済性は、参入障壁を高める有力な要因である。
(B)特許や独自の技術
(C)流通チャネルの閉鎖性

販売店の系列化により、流通チャネルに対する支配力を高めることは参入障壁になる。
(D)政府の規制

③差別化の程度
産業の競争状態は、産業内で製品サービスが差別化されているか、どうかによって異なってくる。


戦略グループ

産業内の競争ユニット

マーケティング手法や活動の類似性に基づいた企業の分類を行う際には、事業構造に注目することが多い。事業構造が異なると有効なマーケティングのあり方が変わってくるからである。この事業構造の類似性にもとづいた企業グループを戦略グループという。

戦略グループを分析する上で、「垂直統合の程度」「製品ラインの広がり」という2つの軸が重要である。前者は、産業の垂直的な連関の中での事業の範囲を捉えたものである。産業の垂直的な連関の中で、どこまでを企業が自社内に統合化しているかを表す。後者は、企業が取り扱う製品サービスのカテゴリ-の広がりを捉えたものである。

(EX)白物家電の中には様々な種類があるが、家電メーカ-でも、製品カテゴリーの全てにわたって製品を供給している企業もあれば、そうでもない企業もある。

深い垂直統合と広い製品ラインを特徴とするのが、PANASONIC、東芝、日立である。これらのグループのマーケティングの特徴としては、①製品ラインを広くして、他社製品の進入を防ぐこと、②革新的な新製品よりも、2番手追従型の製品を先行企業に遅れず投入することを至上命題とする。③他社を圧倒する広告、プロモーションを投入する。化粧品産業では、資生堂、カネボウ、コーセー、花王などの大手制度品メーカーである。

深い垂直統合と狭い製品ラインを特徴とするのが、ソニー、シャープ、パイオニアなどの専門家電メーカーである。これらは、系列店が無かったため、革新的な新製品の開発やブランドイメージを強みとしてきた。化粧品産業では、百貨店などを中心にクリニークや、LVMHなどがある。

浅い垂直統合と広い製品ラインを特徴とする戦略グループとしては、イオンやダイエー、良品計画などのPBを開発する流通企業である。技術革新の余地が小さくなった冷蔵庫などを対象に、基本性能に絞った製品を企画している。化粧品では、マンダム、ユニリーバである。

浅い垂直統合と狭い製品ラインを特徴としているのは、PBなどを請け負う中国、韓国、新興の国内メーカ-などである。化粧品では、コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどで限定的に販売されているPBブランドメーカーである。

以上のように、戦略グループの識別が重要なのは、同じ産業内でも、グループが異なれば、垂直統合の深さや製品ラインの広がりが異なる為、企業が別の戦略グループへ移動することが困難になる、移動障壁が形成されるからである。


戦略グループの強みと弱み

垂直統合がもたらす強み弱み、製品ライン拡大がもたらす強み弱みは以下の通り。

垂直統合の強み

①様々な活動を同期化することでコストを削減できる。
②取引条件を統制する機会が生まれる。
③川上、川下の技術を習得できる。

弱み

①莫大な資金が必要となる。
②企業活動の弾力性が低下する。
③操業水準が最適生産規模に達しなければコストは削減できない。


製品ライン拡大の強み

①幅広い顧客層への対応が可能になる。
②共通化、一括化による規模の経済性を享受できる。
③流通業者やディーラーとの取引が有利になる。


弱み

①戦力の分散化という弊害に直面する。開発やプロモーションの人材や資本を分散して投入せざるを得ない。