2009年8月10日月曜日

競争構造の枠組み

競争の場の枠組み

産業の枠組みは、以下のような複数の視点が重ね合わせることによって与えられる。

①需要の同一性
産業とは、同一の需要をめぐる企業間の競争の場である。もっとも、この需要の交差弾力性の高さに依拠した定義だけでは、産業という場が無限に広がってしまうため、以下の視点を重ね合わせることで少し狭く定義しなければならなくなる。

②技術の共通性 (=産業)
まず考えられるのは、製品サービスを製造したり、運営したりするのに必要な、技術の共通性によって産業を捉えるというアプローチである。

③事業構造の類似性 (=戦略グループ)
企業が誰を直接のライバルと考えるかという問題である。企業が直接のライバルとして認識するのは、同じ産業のなかでも、特によく似たマーケティングの手法や活動を展開している企業だろう。

以上のように、需要の交差弾力性の高さに加えて、技術の共通性、事業構造の類似性に注目することで、企業間の競争の場となる中範囲の領域を切り出すことができる。また、技術の共通性に基づいたユニットを産業、事業構造の類似性に基づいたユニットを戦略グループと呼ぶ。


競争が規定する産業の収益性

マーケティングにかかわる戦略立案を行ううえで、産業という枠組みが重要なのは、産業によって各企業の投資収益率が大きく異なるからである。
事業の収益性は、①自社の属する産業の魅力度、②その産業の中での自社の事業の競争的地位という2つの基本要因によって規定される。

産業という枠組みの中での企業の競争行動は、以下のような3つの基本要因の影響を受ける。

①競争者の数と規模の分布
産業に属している企業の数が少なければ、価格水準をコントロールすることが容易になる。さらに、企業の数だけでなく、産業内で企業の規模がどのように分布しているのかによっても競争状態は異なってくる。企業の数が多くても上位企業にシェアが集中している場合、競争は比較的緩やかなものになる。

②新規参入の容易さ
産業の競争状態は、新規参入が容易であるかどうかによっても異なってくる。参入障壁とは、新たな参入を妨げる要因である。

(A)初期投資の大きさ
規模の経済性は、参入障壁を高める有力な要因である。
(B)特許や独自の技術
(C)流通チャネルの閉鎖性

販売店の系列化により、流通チャネルに対する支配力を高めることは参入障壁になる。
(D)政府の規制

③差別化の程度
産業の競争状態は、産業内で製品サービスが差別化されているか、どうかによって異なってくる。


戦略グループ

産業内の競争ユニット

マーケティング手法や活動の類似性に基づいた企業の分類を行う際には、事業構造に注目することが多い。事業構造が異なると有効なマーケティングのあり方が変わってくるからである。この事業構造の類似性にもとづいた企業グループを戦略グループという。

戦略グループを分析する上で、「垂直統合の程度」「製品ラインの広がり」という2つの軸が重要である。前者は、産業の垂直的な連関の中での事業の範囲を捉えたものである。産業の垂直的な連関の中で、どこまでを企業が自社内に統合化しているかを表す。後者は、企業が取り扱う製品サービスのカテゴリ-の広がりを捉えたものである。

(EX)白物家電の中には様々な種類があるが、家電メーカ-でも、製品カテゴリーの全てにわたって製品を供給している企業もあれば、そうでもない企業もある。

深い垂直統合と広い製品ラインを特徴とするのが、PANASONIC、東芝、日立である。これらのグループのマーケティングの特徴としては、①製品ラインを広くして、他社製品の進入を防ぐこと、②革新的な新製品よりも、2番手追従型の製品を先行企業に遅れず投入することを至上命題とする。③他社を圧倒する広告、プロモーションを投入する。化粧品産業では、資生堂、カネボウ、コーセー、花王などの大手制度品メーカーである。

深い垂直統合と狭い製品ラインを特徴とするのが、ソニー、シャープ、パイオニアなどの専門家電メーカーである。これらは、系列店が無かったため、革新的な新製品の開発やブランドイメージを強みとしてきた。化粧品産業では、百貨店などを中心にクリニークや、LVMHなどがある。

浅い垂直統合と広い製品ラインを特徴とする戦略グループとしては、イオンやダイエー、良品計画などのPBを開発する流通企業である。技術革新の余地が小さくなった冷蔵庫などを対象に、基本性能に絞った製品を企画している。化粧品では、マンダム、ユニリーバである。

浅い垂直統合と狭い製品ラインを特徴としているのは、PBなどを請け負う中国、韓国、新興の国内メーカ-などである。化粧品では、コンビニ、スーパー、ドラッグストアなどで限定的に販売されているPBブランドメーカーである。

以上のように、戦略グループの識別が重要なのは、同じ産業内でも、グループが異なれば、垂直統合の深さや製品ラインの広がりが異なる為、企業が別の戦略グループへ移動することが困難になる、移動障壁が形成されるからである。


戦略グループの強みと弱み

垂直統合がもたらす強み弱み、製品ライン拡大がもたらす強み弱みは以下の通り。

垂直統合の強み

①様々な活動を同期化することでコストを削減できる。
②取引条件を統制する機会が生まれる。
③川上、川下の技術を習得できる。

弱み

①莫大な資金が必要となる。
②企業活動の弾力性が低下する。
③操業水準が最適生産規模に達しなければコストは削減できない。


製品ライン拡大の強み

①幅広い顧客層への対応が可能になる。
②共通化、一括化による規模の経済性を享受できる。
③流通業者やディーラーとの取引が有利になる。


弱み

①戦力の分散化という弊害に直面する。開発やプロモーションの人材や資本を分散して投入せざるを得ない。

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