2009年8月2日日曜日

流通、プロモーション戦略

マーケティングマネジメントにおいて、開発の局面を「価値形成」、普及の局面を「価値実現」と呼んでいる。「価値実現」における、「流通」「プロモーション」の問題を取り上げる。流通とプロモーションは、開発された製品サービスを広く社会に普及させることに関わる。

企業が産出した製品サービスが、顧客の手元に渡るまでの流通経路は流通チャネルと呼ばれる。

流通チャネルの機能

①物流
工場で生産された製品が倉庫や店舗を経由しながら最終的な顧客の手元へと配送されていくことである。物流は作り手と買い手との間で生じる空間的、時間的ギャップを埋める役割を果たす。

②情報流
保管や輸送をスムーズに行うには、さらに、情報の流れ、すなわち、「情報流」もマネジメントしなければならない。作り手と買い手のの間にある様々なギャップを解消しなければならない。例えば、製品の保管や輸送を効率的に行うには、正確な受発注情報のやり取りが不可欠である。また、販売予測の精度を上げることも重要である。近年では、情報システムを導入することで、保管や輸送の管理を一元化し、その精度を向上させようとするサプライチェーンマネジメントの動きが盛んである。

③商流
売買あるいは、取引の流れを「商流」という。流通チャネルを構築する際には、工学的に見ても効率的な物流を構築することは重要であるが、その仕組みに流通業者が介在する場合は、彼らとの取引であるということを忘れてはいけない。取引である以上、相手にとってもメリットのある提案でないといけない。

流通チャネルの類型

流通チャネルの長さ

流通チャネルにはいくつかの類型があり、製品サービスの生産開発を行う生産者、卸売業務や小売業務を行う流通業者、そして保管や輸送を行う物流業者によって構成される。


チャネル①生産者――――――――――――消費者

生産者自ら直接最終的な消費者に販売する方法である。生産者が直営店舗を経営したり、訪問販売、インターネットなどを活用した通信販売を行ったりする方法である。例えば、化粧品業界では、ノエビアやファンケルがこの方法を採用している。

チャネル②生産者――――――小売業者――消費者

生産者が卸売り業務までを兼ねて、販売業務を流通業者に委ねる方法である。化粧品業界では、精度品メーカーの資生堂やコーセーはこの方法を採用している。

チャネル③生産者―卸売業者―小売業者―消費者

生産者は、卸売り業務と小売業務の全てを委ねる方法である。化粧品業界では、一般品メーカーのマンダムや日本リーバはこの方法を採用している。

以上のような流通チャネルの中でどの類型が優れているかは、ターゲットとなる最終顧客、取引先となる流通業者、自社の経営資源などの条件によって異なる。尚、卸売り業務は複数の業者による多段階のネットワークとなる場合がある。特に、小売業者だけでなく生産者、消費者の数が多い場合、多段階化が生じやすくなる。それは、生産者から消費者に商品が届くまでにかかるコストが高くなるので、多段階化することで、コストを分散していると考えることができる。


流通チャネルの幅

チャネルの段階数が決まったなら、各段階で用いられる仲介者数を決定しなければならない。

①排他的流通政策(数は少ない、コントロール強い、高級品など専門品に適している)
流通業者の数を少なくし、厳しく制限される。高級商品などでは、自社ブランドのイメージをコントロールする必要があるため、生産者は特定のエリアにおける仲介業者数を絞り込み、強力なリレーションを築き排他的に製品を販売してもらおうとする。

②選択的流通政策(数は中程度、コントロール中程度、衣料品、家電製品など買回り品
この考え方のもとでは、取引を希望する仲介業者の中からいくつかが選択される。重要度の低い仲介業者は選択せず、選択したメンバーと良好な関係を構築しようとする。

③開放的流通政策(数は多い、コントロールは弱い、スナック菓子、日用品など最寄品
できる限り多くの仲介業者との取引が進められる。チャネル数が増えすぎると、値崩れが進んだり、既存チャネルとの軋轢が生まれたり、ブランドイメージが低下するため、やがて顧客からの支持を失うことになりかねない。

流通チャネルの深さ(統合)

垂直的マーケティングシステム

各チャネルメンバーは互いに独立した存在であるため、各メンバーは自らの利益を優先させるため、チャネル全体の効率が損なわれやすい。これに対して、各業者が統合されたシステムとして機能するチャネルのことである。

①企業型VMS(コントロール、投資負担、リスク
複数の段階が、特定の企業資本によって、統合されている場合である。例えば、ナイキや花王などの製造業者は、独自の卸売り部門や販売部門を運営している。

②契約型VMS(コントロール、投資負担、リスク
チャネルにおける複数の段階が契約によって統合されている場合である。共同出資により、事業体を組織し、卸売りや生産活動を展開するコーペラティブチェーン、フランチャイザーというチャネルメンバーのもとに統合されたフランチャイズチェーンなどがある。

③管理型VMS(コントロール、投資負担、リスク
ある特定のチャネルンバーのパワーによってチャネルの各段階が調整されている場合である。圧倒的な市場シェアを持つ製造業者や、膨大な販売力を持つ小売業者が自らの強大なパワーによってチャネルを統合することができる。

流通チャネルのデザイン(意思決定問題)

チャネルをデザインする際に、自社で構築(統合)するのか?他者に委ねるのかを検討しなければならない。それでは、なぜ、生産者は自社の製品サービスの販売を流通業者に委ねるのだろうか?それは以下のメリットがあるからである。

①消費の小規模分散性への対応
製品サービスの生産の拠点は、特定の場所に集約されるが、製品サービスの消費は、地理的に広い範囲で分散して行われるため、個々の買い手の購買力は、生産規模に比べてはるかに小規模であり、この小規模分散性に対応しなければならない。この時、全国津々浦々に点在している流通業者を活用することで対応できる。

②資金調達とリスクの負担の軽減
小規模分散性に対応するために、多数の販売拠点を構えなければならず、自社で構築するには莫大な費用が必要になるため、既存のネットワークを活用すれば費用が抑えられる。

③スピーディーな展開
流通業者を自社で構築するには、資金の問題に加えて、スピーディーな対応という点でも問題がある。
④社会的品揃えの実現
生産者が生産される商品のみを販売する店舗は消費者にとって魅力的だとは言えない。流通業者に委ねることで、消費者にとって魅力的な品揃えを形成できる。

⑤取り引数節約
製品サービスの販売を生産者と消費者が直接行う場合、複数の生産者と接触しなければならないが、流通業者が介在すれば、品揃えが形成されているため、1度の接触で商品の比較検討、購入ができる。つまり、取り引数が節約される。

逆にデメリットは、店頭での販売価格、販売方法をコントロールする権限販売データを収集する権限、売れ行きを見て店舗間で商品を入れ替える権限、販売における収益の一部を断念することに繋がる。

以上のことを考慮にいれ、多くの企業は、流通業者を全面的に流通業者に委ねるのではなく、自社で管理する部分と、委ねる部分を混在させるパターンが多い。

また、統合か取引かのトレードオフに関しては、取引対応
(http://maki-jun77.blogspot.com/2009/08/blog-post_11.html)で扱っている。


プロモーション

メッセージの選択

製品サービスが購買されるためには、流通の問題に加えて、その情報が買い手に行き渡っていなければならない。プロモーションは、製品サービスにかかわる情報を多数の人々に向けて発信する活動である。優れたプロモーションを展開するためには、活動の戦略的なデザインが必要となる。基本的に2つの問題を考慮しなければならない。

①何を伝えるのか(メッセージとして何を語るか)の選択
②どのように伝えるか(メディアをどのように組み合わせるか)の選択


プロモーションのメッセージを導き出すための主要な視点

①製品サービスの特徴そのものの特徴をとらえる。
→製品サービスの名称、属性、便宜、イメージ、理念など。
②製品サービスと顧客との関係をとらえる。
→用途や使用シーン、ターゲットとしている顧客のタイプなど。
③製品サービスを提供する企業の特性を伝える。
→製品技術、生産技術、経営理念、歴史など。
④他社の製品サービスとの競争関係をとらえる。
→競合する製品に対する優位性、差別性など。

メッセージの戦略的な戦略

戦略的に優れたメッセージを選択するには、そのメッセージが以下の3つのポイントを満たしていることを検討すべきである。

①ターゲットとなる買い手に対する訴求力がある。
②競争相手が模倣することの困難な優位性が確立される。
③マーケティングミックスの他の要素との整合が取れている。

メディアの選択~プロモーションミックスの構成要素~

メッセージを戦略的に策定することに加え、策定したメッセージをどのように人々に伝えていくかを考えなければならない。その手段は以下の4つのメディアがあり、プロモーションミックスと総称される。

①広告活動(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ポスター、看板、DM、インターネット、折込み広告)
→多くの人々の視聴するメディアや、多くの人々の集まる場所に時間やスペースを確保し、料金を支払って自社の製品サービスの情報を提示する活動である。現在では、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアを用いた広告が主流だが、インターネットのポータルサイトやイベント会場などのメディアもある。

②PR活動(プレス、学会、協賛、年次報告書、社内報、財界活動)
→広告活動と異なり、間接的にメディアを利用するものである。PR活動の中心は、テレビ、新聞、雑誌などの番組や記事として取り上げられることを狙った様々な情報提供活動である。PR活動は、信頼性が高いという利点があるが、企業が発信したいメッセージをコントロールできないところがデメリットである。

③人的販売(販売員による商品説明、推奨、カウンセリング販売)
→人的販売は、営業担当者や販売員など人を介した顧客との直接的な会話を通じて情報を提示する活動である。生産財を扱う企業は、人的販売がプロモーションの中心になることが多い。

④セールスプロモーション(クーポン、おまけ、懸賞、サンプル配布、商品展示、小冊子、見本)
→製品サービスにかかわる情報を伝えるための活動で上記の3つに属さない活動の総称である。製品サービスを直接見たり、触ったり、使ったりする経験を与えることで、製品に対する理解度を高めようとする活動が数多く含まれる。

統合化されたマーケティングコミュニケーション

上述したプロモーションミックスは、企業が人々に製品サービスに関わる情報を伝達するための中心的な手段であるが、伝達手段は、プロモーションミックスに限定されるわけではない。
製品の素材やデザイン、店舗の立地やインテリア、標準的な価格帯や値引き率などを通じても、製品サービスの在り方は伝わっていく。このようなプロモーションミックスの範疇を超えたマーケティングミックスの諸要素を総動員したコミュニケーションを「統合型マーケティングコミュニケーションIMC(Integrated Marketing Communications)」と呼ぶ。

(Ex)無印良品やザボディショップのようなコンセプトショップでは、店舗の雰囲気、陳列、価格帯、包装紙のデザインを通じて、人々は無印良品やボディショップとは何かを感じとることができる。

また、IMCが発展した要因として、マス広告の地位低下、インターネットの発達、広告効果に対する説明責任の高まりが挙げられる。現在のIMCは、単なるMCの統合ではなく、真の顧客視点で統合が進められている。

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