2009年8月2日日曜日

製品、価格戦略

第一章で提示したマーケティングマネジメントのエッセンスは、製品、価格、流通、プロモーションを内的、外的に整合化するという考え方である。ここでは、製品、価格に関わるマーケティングの主要な問題を検討する。

①製品、サービス(product)とは何か?

顧客が抱えている問題を解決すると考えることができる。マーケティングでは、製品サービスを顧客との関係で捉えるので、このとき、製品サービスは、顧客の抱えている問題を解決する「便宜の束」としてデザインされる。

(EX)コカコーラの買い手は、コーラの物理的特性というよりは、「喉の渇きを癒す」「爽快な気分を味わう」と言った便宜を手に入れようとしているのである。 自動車の買い手は、「スムーズな移動」「快適な空間」「自分らしさの表現」を手に入れようとしている。 ホテルは、「快適な眠り」「贅沢な時間」「旅先での連絡の場」 。

以上で挙げたのは、製品サービスを使用する局面における便宜である。だが、便宜の束を捉えるには、もう少し視野を広げるべきである。すなわち、顧客にとって製品サービスとは、認知し、取得し、使用し、廃棄するものである。したがって、製品サービスに対する顧客の評価は、使用時だけのパフォーマンスで決まるわけではない。

製品サービスの構成要素

顧客は、基本的に製品、サービスそのものを必要として購買を行うのだが、そのためには、パッケージングや、アフターサービスといった付加的な要素が不可欠な場合がある。例えば、シャンプーは、パッケージングのおかげで、セルフサービス形式の店舗で購入できるし、ルームエアコンなど、取り付けサービスが必要な商品もある。

このように、付加的な要素も含めて、製品サービスを捉えることで、企業が顧客に提供しようとしている便宜を、より包括的に検討しデザインすることができる。また、販売する際には、付加的な要素をセットにして販売するのか(バンドリング)、別々の製品サービスとして販売するのか(アン・バンドリング)という問題についても検討しなければならない。

新製品、サービスの開発プロセス

優れた技術を開発することと、それを製品、サービスとして市場に送り出すことの間には大きな隔たりがある。この両者の隔たりを埋めるのが、新製品、サービスの開発プロセスである。以下の手順で行われる。

Aアイデアの創出・・・まず優れたアイディア候補を数多く蓄積することが望ましい。
Bコンセプトの開発・・・アイディアを買い手が製品サービスとして欲しがる「コンセプト」へと変換する。
C技術収益性計画・・・便宜の束を製品として具体化するためには、技術的裏づけが必要である。
D製品サービス設計・・・製品コンセプトに合致した製品サービスを生産するためのマニュアル作成。
E要素技術開発・・・・・・・新たに必要な部品や技術を自社で調達する場合は、その設計が必要。
F工程設計と生産準備・・他企業から調達する場合は、具体的交渉し、試作品作成。
G市場導入・・・・顧客との関係を創り出すために、価格、チャネル、プロモなど様々な手法が動員される。

開発における組織デザイン

A新製品サービスの開発プロセスは、直接的に進行するわけではない。
B開発ステップは、並行的に進行する。
C開発プロセスでは、組織的な協働がが重要となる。
D開発は、組織に開発能力を蓄積するプロセスでもある。


アソートメントのデザイン

多くの企業は、同時にいくつもの製品サービスを提供している。この群としての製品サービスのラインナップをどのように組み立てるのかを考えなければならない。こうした組み立てを「アソートメント」という。
アソートメントは、企業が扱っている製品サービスをラインの数(カテゴリーの数)と、各ライン内のアイテムの数とによって捉えることができる。前者を、ラインの広がり、後者をラインの奥行きという。(P65)

また、アソートメントを考える時には、以下の2つの問題を検討する必要がある。

①新製品サービスは、自社のアソートメントの中でどのような位置付けか?
②新製品サービスは、単一のアイテムで市場に導入するのか、それとも複数のアイテムからなるラインとして市場に導入するのか?

アソートメントの優位性

アソートメントの全体的な構成に関しても内的外的一貫性を確立しなければならない。重要なことは、アソートメントに着目することで、個別の製品サービスを開発するだけでは解決できない問題への対応が可能になることである。つまり、アソートメントの巧みな構成がビジネスの機会を拡大するのである。

(EX)トヨタ自動車は、価格の異なる多様なモデルを生産することで、多様な顧客に対応できるだけでなく、買い替え時に、顧客がより高価格の製品にグレードアップするように誘導することができる。(クラウン→レクサスetc)


②価格の役割

なぜ価格のデザインを行うのか?
顧客との関係を創造維持するためには、企業は製品サービスの開発、改善に加えて、価格のデザインにも取りくまなければならない。いかに優れた製品であっても、価格が適切でなければ購入されない、また、価格の設定を通じて製品に対するプロモーションの効果を高めたりできる。
一般的には、価格デザインは、製品サービスの価格をどの水準に設定するかという問題である。生産に同じ費用がかかる製品サービスであっても、価格を高くすれば良い場合もあれば、低くする方が良い場合がある。

基本的価格設定

(A)コストに基づく価格設定

◎コストプラス法
一定の利益率をコストに上乗せして価格を設定する。
◎損益分岐点を用いた価格設定
損益分岐点とは、販売数量が増加していくことによって、赤字の状態から利益が生まれる黒字に変わるまさに分岐点であり、分岐点を用いて価格の設定を検討する。

(B)需要に基づく価格設定
売り手のコストではなく、需要面=ベネフィットに対する買い手の知覚に基づく。

(C)競争に基づいた価格設定
競合製品つけられている価格にあわせて設定。実勢価格は、市場での力関係やブランドイメージが加味されるので、競争製品より高価格に設定する場合もあれば、低価格に設定することもある。


戦略的価格デザイン

マーケティング担当者は、様々な状況の中で、適切な価格水準を見極め、その実現に向けて様々な活動に取り組むことを求められる。この時、担当者が検討すべき3つの関係がある。

A需要の価格弾力性

製品サービスは、高すぎても、低すぎてもいけない。高すぎれば需要が見込めない価格になるし、低すぎれば、利益が見込めない価格になるからである。この上限と下限を認識することが価格設定の出発点である。

需要の価格弾力性とは、価格の変動に対する需要の反応の度合いのことである。価格の変動に対する需要がほとんど変化しないことを価格弾力性が低い、非弾力的といい、大きく変化することを価格弾力性が高い、弾力的であると言う。

価格の弾力性に大きな影響を及ぼすのが、「代替的な製品サービスの有無」である。代替製品が多くあれば、価格を引き上げると需要の多くが代替製品に流れてしまう。逆に価格を下げると、需要を吸引することで、販売量を大きく伸ばすことができる。

(EX)マクドナルドが、「平日半額セール」を開始し、130円→65円に値下げしたのである。その時、ハンバーガーの販売額が4.8倍に増加し、売上額は倍増した。これは、ハンバーガーが価格弾力性が高いために、価格を大幅に下げることで需要が増加した典型例である。

B価格に依拠した価値の推定

上記とは逆に、価格を引き上げることで需要が増大することがある。製品サービスの効能や機能が分かりにくい場合に行われやすい。価格が高いことは、製品サービスが優れた機能や効能を備えていることの代理指標となる。そのため、場合によっては、価格を高くした方が、購買が促進される現象が起こる。

(EX)クラッシックコンサートのチケットの価格を引き上げたところ、かえって客足が伸びたという事例がある。それは、買い手が価格を拠りどころとして、サービスの品質を推定しているからだと考えられる。つまり、価格に依拠した価値の推定が行われたのである。また、ルイヴィトンなどのブランド品も同じと考えられることができる。

Cマーケティングミックスとの連動

需要の価格弾力性は、長期的に見た時、固定的で動かしにくい前提ではなくなる。企業は、様々なマーケティングの手法や活動を通じて、自らが直面する需要に影響を及ぼすことができる。なぜなら、マーケティング活動には、製品サービスに対する買い手の評価を構成することで、価格弾力性のあり方に影響を及ぼしていく効果があるからである。

加えて、価格のデザインにあたっては、価格がマーケティングミックスのほかのカテゴリーに属する諸要素の働きをサポートするという逆方向の関係も考慮しなければならない。例えば、ディズニーランドでは、パスポートに高い割引率を適用し、土産品に財布を開くことで、トータルで利益を上げている。

マーケティングミックスとの連動を考慮すると様々な価格設定モデルが考えられる。

①補完的価格設定(製品)
本体製品とは別に、定期的に必要な消耗品が必要な場合、本体は低価格で販売し、消耗品の利幅を大きくすることで、トータルで利益を上げるというものである。例えばプリンターとインクである。

②定額制・従量制価格設定(ターゲット)
製品サービスの利用頻度が異なると、顧客にとって魅力的な料金プランが異なってくる。例えば、通信などのサービス事業は、利用のたびに課金する従量制に加え、使用頻度が高い人向けに、使い放題の定額制が採用されている。

③ゾーン価格設定(流通)
空間的に分断された異なる条件の場所に製品サービスを流通させる際に、異なる価格を適用するといったものである。例えば、同じ青果物でもスーパーで日用品として購入する場合と、百貨店で贈答品として販売するのでは、価格弾力性は大きく異なる。これは、飲料品で、スーパーとスポーツスタジアムで販売価格が異なるといった現象と同じである。

④イメージ価格設定(プロモーション)
類似した製品サービスに対してプロモーションや販売店舗や付加的なサービスなどの違いで異なるイメージを確立し、異なる価格で販売するというものである。

その他の価格設定

◎心理面を考慮した価格設定

①端数価格
消費者は、6000円→5980円という価格に対して、最大限に値引きされていると感じる傾向がある。食用品、日用品に多く用いられる。
②威光価格
消費者は品質を判断する基準の1つとして価格を用いることが良くある。そこで品質の高さやステータスを消費者へ訴えかけるために、意図的に高く設定する。例えば、ロレックスなど。価格に依拠した価値の推定と同じ。
③慣習価格
缶入り清涼飲料のように、いくつかの製品においては、社会慣習上定まった価格が設定される。

◎割引
①現金割引

現金で受け取ることにより、早い段階で現金が回収でき資金繰りがよくなるため、金利面やコストで有利になる。
②数量割引
一度に多く購入した買い手には、1単位あたありの価格を引き下げる。
③機能割引
相手によって異なる価格が設定される。多くの機能を遂行する相手には、有利な価格を設定する。
④特売価格、特売季節割引
特売価格を設定することで需要が拡大する。また、季節割引は、需要の少ない時期には、価格を下げ、需要の多い時期には、価格を上げる戦略である。

◎新製品の価格
①上澄み吸収価格(スキミング)・・・早期に利益を得る。
②市場浸透価格(ぺネトレーション)・・・早期に市場シェアをとる。

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